身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

プリキュアオールスターズ 春のカーニバル

  • 春の外国映画のお薦めなら、これから公開されるアカデミー賞がらみの話題作群のなかで(今年の米アカデミー賞ノミネート作はトータルに言って例年よりレベルが高かった)もっともプッシュしたい『セッション』(4月17日公開、ジャズドラマーのタマゴが名門音楽学校でしごきにしごかれる、その果ての景色よ!)から、鬼才ポール・トーマス・アンダーソンがピンチョンの小説世界に挑み、コメディ×ミステリーの様式でぶっ飛びまくるフラワームーブメント鎮魂譚『インヒアレント・ヴァイス』(4月18日公開、主演のヒッピー探偵にホワキン・フェニックス!)まで、かるーく10本くらい上がってしまいます。ウォシャウスキー姉弟のSFロマン『ジュピター』(3月28日公開)にもわくわくしました。一方、今年の春の日本映画はなかなかいいのに出会えません。とりあえず、いろいろ不満はあれど、『ソロモンの偽証』(前篇:公開中、後篇:4月11日公開)は力作です。生徒主導の校内裁判という下手に扱えば絵空事めいちゃう題材を正面から組み敷いてみせたのはりっぱ。主演の新人女優・藤野涼子(芸名も役名と同じ)の、おののきを隠した凛冽な佇まいに拍手を送っておきたい。ただし、「前篇・事件」「後篇・裁判」のふたつ合わせて、作品としては1本ですから。『ゴッドファーザー』や『エイリアン』みたいに、“Part1”だけで作品として完結するという作りにはなっていません。
  • とまぁここまでが、前説です。“プリキュア”といえば思わぬところで穴を開けた一発屋の牝の逃げ馬テイエムプリキュアしか知らないわたしが、映画『プリキュアオールスターズ』新作(3月14日公開)の試写を観たので、その覚え書きをいい加減に残しておこうというのが本題。モーニング娘。が舞台に立った完成披露試写会ではなく、東映の小さな試写室で観ました。お目当ては本篇フィナーレ後のエンディングです。アニメ×娘。×キッズダンサーのMV版「イマココカラ」に、幼児たちの「お母さんといっしょ」的なお遊戯ダンスなどが加わるから、ワンファイブの出番はさらに少なくなります。しかも、左半分にエンディング・クレジットのロールが流れるので、映像はスクリーンの右半分のスペースしかありません。大きなお友だちには一切媚びないよ、そんなことやらなくても家族客が大挙やってくるもん! という強気の姿勢がさすがにいさぎよいですね。とまれ、ここは、小田さくら鞘師里保のアカペラが「ときそら」を想起させるピアノのアルペジオと戯れ合うイントロの涼やかさが、シンフォニックな壮麗さへと拡がってゆく――そんな「イマココカラ」の醍醐味を音のいい室内空間で味わい得たこと。そして、『仔犬ダンの物語』(2002)以来の東映ハロプロのつながりがまだ切れていないことを祝しておきましょう。
  • 本篇にも少し触れておきます。恒例の映画版は歴代プリキュアのオールスター顔見世興行みたいなものなんですね。はじめて知りました。今回は、歴代メンバーのソング&ダンス集が見せ場。といっても、ディズニー・アニメみたいなミュージカル・スタイルじゃなく、招待された異星のカーニバルのステージにメンバーが次々に立つことになるんです。実はこの異星の王国、盗賊に乗っ取られていて、その危機的事態をまだプリキュアになりたての新シリーズの女の子たちが切りひらく。どんなふうに? 歌とダンスと魔法の力というほかありません。その時、劇中で歌われるのが本篇バージョンの「イマココカラ」というわけです。カーニバルを破壊されて怒る守り神の竜なんかも登場しますが、そんな物語展開よりも、羽賀朱音モーニング娘。にいざなったというTV放送時のエンディング・ダンスを映画に発展させた、モーションキャプチャーによるプリキュアCGダンスの競演こそが全篇の目玉なのだと思います。そういえば、石田亜佑美がこしらえたキャラクターをカーニバルの観客席に発見しました。