ハロプロ新人公演８月〈昼〉 小川紗季

• わたしは℃-uteの「めぐる恋の季節」の、メイン・ボーカル鈴木愛理を太陽の位置において他のメンバーが６つの惑星みたいに自転しながら公転する円運動ダンスが大好きだが、このライブでは「Go Girl」だったか「笑顔に涙」だったか、メンバー全員で２つの大きな円をつくって駆けめぐる新人公演らしいパフォーマンスがあった。その「無限大」マークのカナメに小川紗季がいるような気がした。紗季ちゃんにはじまる「始源の運動」が「∞」のかたちを成し、ふたたび紗季ちゃんに到達しようとして経めぐる。フィナーレの「ラブマシィ〜ン！」のキメポーズのいたるまで、見せどころ、聴かせどころの要所要所を小川紗季がつとめあげた今回の公演では、福田花音より小さな彼女がハロプロの新たな胎動のシンボルだった。

• 事務所が推してる？　いや、そんな言い方をわたしは好まない。小川紗季は、見通しのきかないハロプロの未来へと架かる橋だ。『ガキ・カメ』にて亀ちゃん覚えたての四文字熟語を拝借すれば、「五里霧中」の事務所を小川紗季が推してる、と言うほうがむしろしっくりくる。今回の「LOVE涙色」でハッとしたのは、ピアノで鍛えた音感を頼りに前田憂佳が懸命に音程をとりリズムをとって手探りで歌うふうなのを、年下の小川紗季が呼吸を合わせてサビのユニゾンへとリードするときの、表情がかためな憂佳ちゃんに向けた彼女の微笑みの魔力だった。類推を働かせれば、親も知り得ない秘密の領域をはぐくんで、誰もが不気味がる夜の精霊とも友達になってしまう、選ばれた子供の微笑み。そんなところに紗季ちゃんがよく語る「サキチィパワー」の秘密もありはしないか。傑作『ミツバチのささやき』の神話的少女アナ・トレントをちょっとばかり彷彿とさせ、胸を突かれた。

• サキチィとは「エッグで一番最初に仲良くなった」という花音ちゃんによると、小川紗季は「不思議なもの好きそう」な「しっかりした子」で、「おいしいお菓子をいっぱいくれたり」、誕生日でも記念日でもないのに可愛いプレゼントをくれたりするんだという。「めっちゃ辛いものやめっちゃ苦いもの」を店員さんに尋ねたりしてたがいに試食する《挑戦会》は、花音と紗季のふたりだけの遊びらしい。たき火くぐりに挑んだり、死んだふりをして相手を驚かせたり――『11月のギムナジウム』『ポーの一族』の萩尾望都も愛したあの忘れがたい映画『ミツバチのささやき』の、イザベルとアナ姉妹の遊びとみごとに照応するではないか！

＿＿＿＿＿