身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

ハロプロ新人公演8月〈昼〉 森咲樹

  • 清水佐紀中島早貴というちっちゃな先行者に続いて、エッグにもダブル「さき」ちゃんがいる。辛いもの、奇天烈なものが大好きなのが10歳の小川紗季。甘いもの、「おちゃめでブリブリなもの」に目がないのが3つ年上の森咲樹。モリサキちゃんは尊敬もし、憧れもする先輩・嗣永桃子の写真集を見つけるや、本屋の静寂を切り裂いて「カワイイ!」と嬌声を上げ、部屋に持ち帰れば水玉模様の水着ショットにまでいたくときめく。以来、その写真集は彼女にとって「笑顔や仕草」の聖典と化す。本人のモットーは「前向き」だが、福田花音がみた夢によると、不気味な赤い玉を紗季ちゃんが「謎の呪文」を唱えて消す様子をボーゼンとながめたあげく、ホッとして泣き出しちゃう「咲樹ちゃんらしい」役どころだ。*1 自分では「ラブリーサキ」と呼ばれるのがうれしいらしい。だが、年上のエッグ仲間には「ブラックサキ」の異名で呼ばれている。どうやら、さゆみん志向も隠し持っていそう。
  • もちろん、その射程圏にはグレートな石川梨華もいる。森咲樹がバックダンサーとしてプチ・ブレークした今年の正月・中野ワンダコン「愛すクリームとMyプリン」では、石川さんをリスペクトしてまるごとコピーしたみたいな、容量オーバーの面白セクシーダンスを披露してくれた。今回の公演では、「初めてのハッピーバースデー!」と「恋のテレフォンGOAL」というおあつらえ向きの曲を得て、華のある「狂い咲樹」ダンスに磨きがかかった。石川梨華道重さゆみ嗣永桃子森咲樹という純正にしてラジカルなアイドルの系譜。
  • これを「ブリッコアイドル」の流れといえばわかりやすいのだろうが、嗣永桃子はしばしば「ブリッコじゃありません!」とムキになって抵抗する。わたしもそれにならって抵抗のポーズをとってみたい。山本リンダの「困っちゃうナ」を梨華ちゃんが歌うのを『歌ドキッ!』でみて真夜中に大笑いした。ブリッコアイドルの草分けともいえる山本リンダ*2 が防御の姿勢から繰り出すあざといまでの媚びは、しかしすぐに飽きられ、見透かされた。彼女はSEXに対してあけすけで攻撃的な「どうにもとまらない」路線にコロリと寝返る。石川梨華の「困っちゃうナ」のスゴイところは、そういう剥がれやすいメッキでしかない「あざといまでの媚び」と真剣に戯れてみせるところだ。コケティッシュな魅力の横溢!
  • 「コケットリー」というショウビジネス用語は、日本語には「媚態」という訳語しかなく困っちゃうのだが、可笑しみと可愛げのある色っぽさ、というほどの意味になる。いまの女優さんだと、たとえばレニー・ゼルウィガーみたいなタイプ。一般にコメディエンヌの資質がある人の属性なんですね。日本では宝塚や松竹歌劇出身の女優さんにこのタイプがけっこういた。いま旬の人だと、うーん、パッと思いつかない。まがいのアーティストはいっぱいいても、コケットリーを備えたコメディエンヌのなかなか育たない風土なのだ。だから、石川梨華という存在は貴重なのね。ちなみに、ハロプロには吉澤ひとみ久住小春という男役タイプ・少年タイプの「コケットリー」の持ち主がいるが、それについては昨年の『リボンの騎士』の折りに少し触れた気がする。
  • とまれ、松田聖子*3 がブリッコアイドル像を洗練させ、完成させたのなら、石川梨華はそれを切断し、変換したのではないか。本人いわく「キショイ・キャラ」という負性を、全力ワザで肯定に転じることで。石川梨華の背中を追い、そこから放たれるキャラという反射板を自分の自己像の「鏡(カガミ)」とし、自分の理想像の「鑑(カガミ)」ともしてきた道重・嗣永・森は、みんなブリッコを逸脱したファルス(哄笑を呼びおこす劇性)の要素をもっている。森咲樹ちゃんは、石川梨華嗣永桃子の「コケットリー」を、大好きなアンマンみたくモグモグ自分のものにする。笑っちゃうほど自己流に。
  • しかも、森咲樹は「晴朗な抒情味」とでも呼びたい声をもっているのだ。今回の公演のベスト・パフォーマンスは、ポッシボーの持ち歌を除外すれば、だんぜん「BABY! 恋にKNOCK OUT!」だろう。福田花音ごっちんパート。吉川友よっすぃーパート。そして圭ちゃんパートの森咲樹が、伸びやかな歌唱で歌を支えた。タッパを武器にした、ふたりを包みこむようなダンスによって、白熱のアンサンブルにユーモラスな和らぎをもたらしていた。
    • この雑文を半ばにして、寿命間近ながら夏を乗り切ったかにみえたパソコンがぶっ壊れた。くやしいので(ほんとは修復作業でそれどころじゃないのに)アタマに言葉の流れが残っているうちにと、古い原稿用紙を引っ張り出してひさしぶりに手書き原稿を書いた。森咲樹ちゃんをめぐって、こんなに手間をかけて想念を反復することになろうとは。その結果がこれ。われながら愚かだなぁ。

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*1:夢のなかではここでエッグによる「笑顔に涙」の大合唱が巻き起こる。

*2:もっとも1970年前後の当時「ブリッコ」なんて言葉はなかったし、アイドルという呼称すら歌謡界では使われていなかったはず。

*3:森咲樹は昨年春の時東ぁみ中野ファースト・コンで松田聖子の「制服」を歌っている。デュエットながら、これが素晴らしい出来。ぜひDVDをチェックしてください。