身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

℃-ute FCイベ 第9弾 6/14 2nd(川口)

 まだ十四、五前後の少女たちだった。初冬の帰り支度の色どり豊かな
 円陣が、なんのつもりか同じ一点を見上げ、追いつめられた草食獣の
 群れのように、寄り添って祈りを捧げていた。小さな胸のふくらみを
 傍らの子の肩口に押しつけあいながら。「神さま、どうかお願い」と
 童女風の子が声を絞りだした。リーダーらしき少女が「怖いよぉ、怖
 いよぉ」と地を這うような呻き声を上げ、おろおろしはじめた。ちょ
 っと、落ちつけってば! 年下らしき女の子がその背中をたたき、男
 の子みたいにカツを入れた。しばらくはなにも起こらなかった。みな
 が息を殺し、待機の時を耐えていた。と、まるで頭上の先から猛禽の
 たぐいが少女たちの見上げる目をめがけてまっしぐらに襲いかかって
 きたかのように、円陣が地に崩れ落ちた。「ぎゃぁぁぁっ」と切羽つ
 まった声が少女の口々から洩れた。へなちょこリーダーが真っ先に
 弾き飛ばされ、そのあおりを受けてそれぞれが膝からくだけ、尻から
 くだけた。獣じみた嗚咽が方々から聞こえた。少年みたいな子もうず
 くまってすすり泣いた。ただ、小さな童女だけが白い喉をふるわせて
 笑っていた。ウチらに降りかかったのは悲劇なんかじゃない、悦びの
 一撃なんよ、さぁ、みんな、笑おう、と言いたげに。笑いは天に響き、
 それに和して少女たちの笑い声があたりにひろがった。
  • わたしたちはその映像がレコード大賞・最優秀新人賞受賞の瞬間の楽屋模様(TVで流れた受賞コメントの直前の決定的光景と、その後のトロフィーを手に手に笑いあうさま)だと、あらかじめ進行役の中島早貴ちゃんから聞かされていました。だから、そこで起こった凪と嵐のひとときを、泣き笑いとともに観ることもできました。だがもし、それを知らされていなかったら、℃-uteのみんなはどんな受難に見舞われたのか、わたしたちもあのときの矢島舞美ちゃんのようにおろおろするばかりだったんじゃないでしょうか。なぜって、彼女たちが見上げるモニターはぼんやりしてなにが映っているのかはっきりせず、音声も聞き取れないありさま、まるで遭難者が助けを求めるような、奇妙に遊戯めいた、けれど生々しいリアクションのみをひたすら受けとめるほかなかったのですから。
  • それにしても、レコード大賞の権威性には一切興味がない者にとって、ただそれを自分たちには過分なご褒美と信じる7人のリアクションの、まっさらなうろたえぶりのみを受けとめ得る法悦感といったらありません。瞬間、音が破裂し、キャメラも動揺して飛び退きながらその反応を撮り続けたこの映像を、℃-uteのみんなと共有できた悦びはとてつもなく大きい。そして、さきほどVTRで皆さんに観てもらった受賞シーンを思い浮かべながら歌いたいです、という矢島舞美の一言を口火にした『都会っ子、純情』の、麦穂がしなやかに波打つようなパフォーマンスは、また格別のものでした。
    • なお、描写のネタ元は古井由吉の初期短篇小説『円陣を組む女たち』です。知る人ぞ知る傑作(でも絶版)を、下手くそにアレンジしてごめんなさぁい。身近なスタッフが撮ったとおぼしき、決して映像的なクォリティは高くない、けれど生動する若さの特別な一瞬とその震えるような持続ぶりが灼きついた℃-uteの未公開映像とともに、まったく毛色の違うこの小説の一節が蘇ってきました。われながら驚きました。その驚きに免じてご容赦ください。

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