終わらない美勇伝の夜と夢
それはしずかで、きらびやかで、なみなみと湛え、 去りゆく女が最後にくれる笑ひのやうに、 おごそかで、ゆたかで、それでいて侘びしく 異様で、温かで、きらめいて胸に残る…… ああ、胸に残る…… 風が立ち、浪が騒ぎ、 無限のまへに腕を振る。 (中原中也「盲目の秋」より)
- あなたしか見えない。そういう盲目の恋は終わった。悲嘆もあり、懐疑もあり、失望もあった。でも、いま長いトンネルを抜け出した。「夕焼けがまぶしくてまっすぐ見られない」。
- 永遠に帰らない「時」がよみがえる。あなたのうなじ。振り向きざまの笑み。口をすぼめ気味に、すねるようなクセ。「ゆったり過ごした午後だった。楽しい時だった」。
- 懐かしさは必ずしも過去に属するわけじゃない。たしかにあの午後の光は帰ってこないが、その照り返しを受けて、ほら、あまねく世界が見えてくる。刻々過去へと押し流される「いま」という波打ち際に。
- 「随分前に話してた懐かしい映画をようやく探して見つけたよ」。それはすべてのショットに愛しさがみなぎる八ミリ映画だったよ。さみしく、あたたかく、にび色に光る遠い雲の流れのような。海の彼方から幼いころの友達が手招きするような。不定型な愛の構図をゆらゆらとまさぐるような。
- 恋は物語のように、伝説のように、終わりに向かって収束する。けれど、この息苦しいほどの愛しさは、末広がりに流動するばかりで終わらない……
_____