身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

まだら雲とデリステ05 8/30(亀戸)

  • 雨も収まった、自転車で出かけよう、と思っていたところに、またもや雨。またたくまに大雨。行くのよそうか、と迷ううちに、小降りになる。ぐずぐずの天気が呪わしい。窓から空を見ると、遠方に雲の切れ目も。傘を差して両国駅まで歩くことにする。隅田川の川風が運ぶ湿った空気にはうっすら潮が混じっている。去りゆく夏の海の匂い。これも雨にけぶる両国情緒のひとつだろう。亀戸は小雨のなかでの『ハロプロエッグ デリバリーステーション 05』となった。客は前回04の7割くらいか。雨を避けて少し離れた位置に移ってもステージがよく見える。パステルカラーの色違いポロシャツにヴィヴィッドカラーの格子柄ネクタイ。そしてエッグではお馴染みの黒のミニスカート。マイクトラブルも絶えない亀戸サンストは音をじっくり聴くスペースじゃないので、ショッピング街のノイズも音楽の一部にして五感を開く。
  • モーニングコーヒー」「ジンギスカン」という定番を外したセットリストが楽しい。デリステでハモリを聴いたのは初めてかも。今回の面子は能登有沙澤田由梨吉川友北原沙弥香とエッグお姉さんズのツワモノ揃い。能登有沙の全霊ダンスを観ていると「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」なんて格言はのっちには通用しない、画布をはみ出るくらいの絵筆の「過ぎたる」勢いこそが彼女のパフォーマンスの魅力だと思えてくる。石川梨華に目をかけられるゆえんだろう。しかものっちがいると、周りのMCがぐだぐだになってもその口跡の良さ、その明るい響きだけでステージがぐっとまとまる。のっちがエッグのリーダー役でほんとによかった。かと思えば、「ここにいるぜぇ!」ではポジショニングを間違えたのか、誰かと思い切りぶつかって、やけに女の子っぽくキャァ! と小さく叫んだ。わたしは・いま・ここにいる、という個々の存在理由(レゾン・デートル)がバラバラのまま束ねられてゆく「ここにいるぜぇ!」のアンサンブルの破調の面白さに、そのハプニングが改めて気づかせてくれることにもなった。しっかり者のっち、うっかり者ありさ
  • 北原沙弥香のタッパを生かしたダンスのメリハリ、のえる調の低音のおしゃべりとのギャップが愉快な甘い歌声。澤田由梨のスポーティながっしり体躯と色白餅肌のアンバランス、楽曲のカナメを引き締める歌唱の確かさ。メイン・ステージが真横ゆえほとんど見えなかった2年前の夏のハロ・コンで、外周花道の目の前によく来てくれたのが北原沙弥香だった。そのとき、まだ少なかったネット情報をかき集めて名前を覚えた。だから、ここんとこ知名度を上げてきたのが感慨深くって。それら年上の実力者に混じり、砂糖スティック7本でカプチーノ初体験という幼さながら体型では見劣りしない小峰桃香が、ときにセンターになって力強いジャンプやターンを見せてくれた。同期の真野恵里菜はソロになり、Berryzの舞台『リバース!』でいちばんの仲良しになった湯徳歩美には脱退され、取り残されたかたちのこみねっち、ツブログや咲樹色にたびたび登場するスーパー天然ぶりがステージにも炸裂すればいいのだが。
  • 空はどんより古綿色の雲に覆われている。吉川友のポロシャツだけがたおやかな稜線を胸にかたどって空の色。「モーニングコーヒー」ではなっちパートを未来のエースの貫禄でこなし、「ジンギスカン」では腿を上げて腰をシェイクするダンスがなまめかしかった。やや緊張してるのだろうか、ステージ上ではのっちとは対照的に、すました感じのポーカーフェイスでいることが多いのだが、テラスの親子連れに手を振ったり、ときおりこちらにきりっと視線を向け、笑みを浮かべて煽ってくる。そういえば新人公演の1回目なども、ほとんど目立たないポジションにいたのに、薄幸の少女みたいにアヒル口をつぼめて八の字の眉根に切なさをにじませたり、手首を胸元に寄せてすねるようにイヤイヤをする仕草をしてみたり、不思議と演戯的な愛嬌を感じさせもした。そういうところ、こべにちゃんのキャラクターに通じるのだろう。が、今回の私的クライマックスは定番曲「Go Girl 恋のヴィクトリー」のときにやってきた。
  • いつしか雨も上がり、一面のまだら雲が薄曇りに心持ち明るむ。その午後の薄あかりとステージの簡素な照明が溶けあい、中腰から顔を上げて静止のポーズをとった吉川友が人間離れして美しかった。そのとき、彼女はダンスのキメに応じてというより、光のわずかな変化に応じて微笑んだのだ。薄明が似合う少女。彼女の瞳はあるかないかの光を吸い尽くして異様に煌めく。「ヴァンプ」という言葉が浮かんだ。女ヴァンパイアのように男の精気を吸い尽くす悪女型ヒロインの一典型だ。日本では「妖婦」や「毒婦」と訳されたりするが、その妖しい歌声やナマ足で男を魅了する毒入りの天使的キャラクターとでもいえばいいか。ポーラ・ネグリマレーネ・ディートリッヒ。軟弱な純愛ものが幅をきかすいまでは魅惑のヴァンプ女優は洋邦ともすっかりカゲを潜めたが、そういう誇り高く敏捷な「山猫」の幻影を、妙に醒めた吉川友の肉感性から嗅ぎとるひとときも魅惑に満ちていた。鎮静するこべに、挑発するきっか。

_____