身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

東京少女2008 全40話 BEST7 その一

七 桜庭ななみ #2『鏡の国のななみ』
監督:加藤尚樹 脚本:保坂大輔 ☆ななみはコーヒーショップでマリコと映画の待ち合わせ。マリコは相変わらず時間にルーズだ。やって来たころにはお目当ての映画がタイムオーバー。ななみが怒ってトイレに立つ間、男子がマリコに話しかけている。ななみがひそかに想う中村くん。翌日、ななみは中村くんに、友だちのマリコちゃんへメアドを渡すよう頼まれる。入り口はよくある話だが、ななみが一計を案じてマリコに成りすまし、マリコが中村くんを好きになり始めたのを知ると携帯をもう一台増やして中村にも成りすまし、嘘に嘘を重ねて暴走しちゃう展開が面白い。ブランコでひとり嘘のメールを打つななみの、後ろ姿に宿る哀愁。屋根裏風の自室で「ごめんマリコ、これが最後」ってつぶやくも、うしろ暗い感情に耐えられず、来るはずのない中村くんを公園の噴水広場で待つマリコの元に駆けだす清新さ。ひとり屋上でお弁当を食べながら、転がるプチトマトの行き先に中村くんが現れると、嘘がすっかりバレてるのに最後のあがきを試みる、ななみの必死の道化ぶり。その黒髪を風がいたぶる。苦みとサスペンスを効かせつつも、ちゃんとコメディとして成立しているのがうれしい。ここでの桜庭ななみはコメディだからといって、へんに誇張芝居をしないのがいい。中村くんとのキス・シーンをシミュレートしてベッドに尻モチをつくシーンなんて、素敵なコメディエンヌだ。鏡のなかの自分に向かって、「あたしひとりになっちゃった、これでよかった」って泣くシーンは、ジーン・セバーグが演じた『悲しみよこんにちは』のセシールみたい! 監督も脚本も若い新人のようだが、ともに優秀。ガラス張りの渡り廊下での、すれ違いざまをとらえた、ちょっと『第三の男』ばりのラストシーンも気がきいている。
六 岡本杏理 #2『家出のススメ。』
監督:若松孝二 脚本:福永マリカ ☆寺山修司のような表題だね。トンボ眼鏡のグラサンに赤いペディキュア、めいっぱい派手なギャル風のお洒落が片田舎のバスには場違いで。あっさり家出少女と見ぬいた佐野史郎の中年サラリーマン・渡邊が、お節介にも声をかける。あとはもう一気呵成、海辺を走るバスのなかで、怒濤の会話劇が繰り広げられる。だらしないなぁ、恥ずかしくないのか。恥ずかしいよ、どうせ似合わないし。ずっと真っ直ぐにがんばってきた。あたしは真面目ちゃん。でも、結果だけで評価されるのって、もうまっぴら。親も点数にしか興味ないし。そういう自分のイメージや面倒な人づきあいから、ここへ逃げてきたのよ。誰にだって面倒があるさ。それを賢く、巧くやっていくものなんだ。大人ってテキトーね。あたしはそんな大人になるのが嫌になった。ふたりはたがいに噛みあわないまま、言葉のつぶてをぶつけあう。杏理の台詞の声がときどきマジで震えだす。このドラマはナマ物だ。グラサンのせいでわからなった杏理の目線。眼鏡を外したとたん、濃いめにメークした目が哀しい潤(うる)みをおびて飛びこんでくる。子供自慢をはじめる渡邊に、可愛いですか、って微笑むそのまなざしにゾクッとくる。娘さんの好きな食べ物は? 趣味は? 渡邊は子供が小さいころのことしか語れない。いまはほとんど会話がないのだ。そういう渡邊の現実を、微笑みをともに引きだしちゃう14歳女子の意地悪さをふくめて、岡本杏理が素晴らしい。自己愛に陥らない福永マリカの脚本もいい。夏休みに孫も来ない、なんて人生をあきらめた風情の偏屈婆さんがバスに乗りこんでくると、辛味のきいた会話劇の面白さはさらに増す。途中、杏理が裸足になってバスから駆けだし、いい子なんかじゃないぃぃ、大人も世の中もわかってないぃぃ、って海に叫ぶ(ここはバスト・アップの長回し)場面は、設定はベタだけど、鬱屈した日頃の想いを波と会話するように解き放つ、すがすがしい名シーンだ。ラストの、ずっと黙っていたバス運転手の脇役的な使い方も上手い。バスよ、夜のハイウェイを走りぬけ! と応援したくなる。

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