身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

東京少女2008 全40話 BEST7 その二

五 瓜生美咲 #3『三角形の恋』
監督:熊切和嘉 脚本:篠崎絵里子 ☆40話中、胸きゅんコメディの極めつけ。入学式で迷子のところを助けてくれた13歳年上の数学教師に恋をする、可愛いけどちょっとダサめの「お子ちゃま」を演じてハマるのは、初期の工藤夕貴をぽっちゃりさせたような瓜生(うりゅう)美咲にとって、コメディエンヌとしての武器になる。数学テストで落第点とってひとり補習をうけることになり、思わず親に感謝する。「バカに産んでくれてありがとう」って。笑える。二段ベッドの下につっぱりお姉ちゃんが寝ていて、補習の想定問答をする妹のバカさ加減に、そんなことより押し倒して既成事実、20代半ばの男なんてやりたいさかり、がんばれと励まされ、「ぜったいがんばる」とパジャマ姿でミルクをがぶ飲みする。居残りの教室で「押し倒す」ってつぶやいてもみるが、先生の前では好きとすら言えない。彼の携帯ストラップが同僚の女教師とお揃いなのを発見すると、姉の商う川べりのおでん屋で「ウーロン茶もういっぱい」ってヤケ酒を決めこむ。下手な誇張に走らないボケの呼吸がいい。実はその女教師も美咲と同じ片想いの立場で、彼のホントの恋人は美咲より5つ上の卒業生だったという展開も面白い。なんだまだガキじゃない、ずるい! あたしが先に出会ってさえいれば、とガキの美咲が嫉妬の炎をたぎらせる。このドラマの白眉だ。でも、教室の「扉」を生かした幕切れは涼やか。売り出し中の熊切和嘉の監督作のなかでは、劇場映画をふくめてわたしはこれがいちばん好き。
四 岡本杏理 #1『川の匂い』
監督:佐々木浩久 脚本:中江有里 ☆40話中、下町ホームドラマの極めつけ。植木の緑が萌える路地、日向ぼっこの猫、旧い理髪店のサインポール、自転車の鈴や風鈴の音――夏の盛り、下町風情の女の子が、ハダシの似合う岡本杏理にはよく似合う。杏理の部屋には、床屋の父(柳ユーレイ)が同業の友人から預かった男の子ケンが転がりこんでくる。弟ができたとうれしくなって話しかけても、ろくに言葉を返さない。無口で暗いヤツ。存在感ゼロ。杏理はだんだんこの弟が疎ましくなる。なのにチャブ台の食卓でも、両親は奇妙なほどケンに気を遣っている。思わず「ケンなんていないほうがいい」なんて口走ってしまう。ほどなくケンの「秘密」が明かされるのだが、素晴らしいのは、下町ですくすく育った明るい女の子がみせる、冷たくほのぐらい思春期の気持ちの感触だ。といっても、冷たさに振り切れるのではなく、ケンの寝顔に手を添えたりする生来のやさしさとの揺れ具合が、ハッとするほど繊細でリアル。お豆腐のお使い帰りに姉弟ふたりで嗅ぐ「川の匂い」、幼いころから父親に髪を切ってもらっていた杏理が青山の美容室へ友だちとお出かけするって言いだす反抗の顛末など、屋外のエピソードにも屋内のエピソードにも産毛が震えるような思春期の抒情がある。おかっぱ風に持ち上げられた杏理の長い黒髪がお店の鏡のなかで、はらりとほどける。美しい。両親の呼びかけに反応する土手ふちの杏理の浴衣姿も。脚本・中江有里=監督・佐々木浩久のコンビネーションの、これがベストワークだろう。
三 岡本あずさ #4#5『絆』(前後編)
監督:若松孝二 脚本:篠崎絵里子 ☆40話中、感涙必至、ロードムービーの極めつけ。薄かった岡本あずさの女優としての印象度は、この1作でがらりと変わった。江戸っ子気質のおじいちゃん子だったことに由来するらしき、べらんめぇ調の男言葉がやけにしっくりくる。 あずさは父のたっての頼みから、取引先の社長の娘のお相手をするはめに。コリアン令嬢ミンジのわがままぶりにひるみもせず、茶を飲め! 熱いのがいいって? 出されたものはきちんと飲むのが人間の基本だぞぉ、ミジンコ、ってしゃきしゃき応対する、いなせな女っぷりがいい。ミンジがカゴの鳥と知るや、ミジンコ、行こうぜ! と女執事をまいて逃亡する。実はミンジには幼くして生き別れた日本人の母がいて、逃亡は母を捜して千里の旅となる。岡本あずさは韓国語を解さず、韓国女優イム・ヒョンギャンは日本語を解さない。ふたりの旅は、片言の英語と身ぶりを交えた、リアル・コミュニケーションの旅となる。即興劇的なスリル。旅の途で大金の入ったミンジの財布がスリに遭い、空っ腹に思いあまって柿泥棒、というくだりもロードムービーならではのスリリングなみずみずしさ。それを農夫に見とがめられ、おわびに畑仕事をしてこの老夫婦の家で一宿一飯にあずかるエピソードなんて、どこでこんな魅力的な顔立ちの老夫婦役を見つけてきたのかといいたくなるほど旅の興趣に富む。ラストは、唇をきりっと結んで涙をこらえ、ミンジを見送る岡本あずさのアップのストップモーションが素晴らしい、というに留めておく。本シリーズ中、最ベテランの監督だろうが、早撮りを生かした若松孝二の演出には圧倒的な若さがある。

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