身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

大相撲 63連勝の剣が峰 白鵬×稀勢の里

  • 11月15日、九州場所2日目の大相撲は、がらがらの館内をあざわらうようにめっぽう面白かった。といっても、仕事からいっとき解放されてNHKの7時と9時のニュースで横着に観ただけなのだが、ニュースウォッチ9は(あとちらっと観た報道ステーションも)トップニュースだった。不祥事ではなく土俵の話題がトップ扱いというのは、若貴ブーム以来じゃなかったか。でも、ひとつ気になったことを書き留めておきたい。白鵬の連勝記録にさんざん双葉山の69連勝*1 を持ちだしておきながら、今日の相撲と双葉山が前頭の安藝ノ海に敗れたときの相撲との戦術的な対応関係を誰も語ろうとしなかった。稀勢の里は張り差しの作戦で白鵬が一気に攻め立てるのを土俵際でしのいだ後、白鵬のあごに一発かまして突っ張りで反撃に出た。これに白鵬がカッとなって張り手にこだわり、稀勢十分の左四つを許したのが敗因その1とすれば、敗因その2はその体勢を嫌って左から強引なすくい投げを打とうとしたことだ。
  • およそ70年前、安藝ノ海は立ち合いから突き立てたあとに右四つにもぐる体勢となり、それを嫌った双葉は強引に右からすくい投げを打った。そのとき、双葉の腰がそり返ったところを見計らうように、安藝ノ海は双葉の右足を左外掛け一閃にはらった。稀勢の里白鵬が左からの無理なすくい投げで腰がそり返るその左足に2度ほど右外掛けを試みている。それは相手が腰から砕けるほどの安藝ノ海の鋭さはなかったのだが、投げへの防御と相手の腰を浮かせる効果はてきめんで、それがあって稀勢の里は正攻法にぐいと寄りたて、白鵬を土俵外へ吹っ飛ばすことができたのだ。ならば、あのとっさの外掛けははるか昔の安藝ノ海から学んだ作戦のひとつなのか、あるいはまったくの偶然なのか。プロの相撲アナや記者ならばそれを稀勢の里に問いかけるくらいの一言があってもよさそうなものなのに。いくら相撲人気がジリ貧といっても、「大相撲のNHK」ならもうちょっと冴えたところのある分析をみせてほしいと思った。とまれ、双葉山はその敗戦にショックを受けて3連敗。取組後、放心気味だった白鵬はどうか。安藝ノ海はその後、横綱まで上りつめたが、稀勢の里はどうか?
  • ニュースウォッチ9のスポーツ枠では、この歴史的一番の陰に隠れたかっこうの、腹を抱えて笑いたくなるもう一番もみせてくれた。阿覧にいなされ後ろから抱きかかえられた童顔の巨漢・把瑠都が、それでも肩ごしに相手の廻しを窮屈な逆手の格好で片方だけつかみ、機をみてジャーマン・スープレックスみたいな捨て身の波離間(播磨)投げを打って、あっと驚く逆転勝ちをしちゃった。十年に一度くらいの大技なのだが、把瑠都は4年前にもこれをキメていて密かな得意技といっていいだろう。うちの仕事場は両国からそう遠くなく、把瑠都がまだ無名時代に近所のATMに並んでいるところを出くわしたことがある。お相撲、がんばってね! と言ったら、人なつこい少年の笑みを浮かべてうなづいてくれた。こういう研究の跡がうかがえる執念の相撲や、哄笑を呼ぶ豪放な相撲をごくたまに観ちゃうと、やっぱり大相撲を見捨てられなくなる。土俵の上の事件、としての大相撲をわたしは見ていたい。白鵬稀勢の里把瑠都も応援している。



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*1:こっちは年2場所制、足かけ4年かけて達成した記録だが。