身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

レビュー/フィナーレのこと

魂たちよ、こんどはなにになりたい?

フィナーレのことに触れておきたいと思います。このフィナーレは『リボンの騎士 ザ・ミュージカル』の劇本編とは違う位相にあるものです。台本にはこう書かれています。「ハロー・プロジェクトのフィナーレ。……アイディア。コンサートで歌い慣れている曲を中心に構成し、そこへ宝塚歌劇の要素を盛り込む」と。ハロプロのミュージカルでは、いままで本編にそえてミニライブが行われており、今回もその流れからこれはミニライブだという認識が界隈に広まりました。ミニライブだという認識に立って、初日では立ち上がる人もいたし、サイリウムを振る人もいた。このミュージカルにミニライブなんていらない、という議論も起こったようです。でもステージを観るかぎり、そこで試みられているのは「宝塚歌劇がつちかってきた“レビュー”というスタイルにハロプロのコンサートで歌いなれた曲の要素を盛り込む」というものでした。ミニライブではなく、あくまで“レビュー”なのです。まず、その認識に立つところから始めましょう。


では、“レビュー”とはなにか? 評を意味する“review”という言葉がこのごろ盛んに使われるのでまぎらわしいのですが、こちらはフランス語起源の“revue”。ミュージカルが、歌とダンスが登場人物の心の動き――期待や悲しみや幸福感を表現して劇的高揚をもたらし、物語を進行させるドラマ形式なのに対し、レビューは物語性が希薄で、歌やダンスをメインに華やかに、視覚性とバラエティ豊かに(ときに寸劇なども織りこんで)場面を展開してゆくショー形式といっていいでしょう。比較的最近の映画なら、ニコール・キッドマンユアン・マクレガー主演のミュージカル『ムーラン・ルージュ』を観ると、19世紀末フランスのレビューやボードビル*1 の雰囲気の一端を味わえます。もっとも『ロミオ&ジュリエット』のバズ・ラーマン監督のこと、19世紀から20世紀のポップ・ロック界へと駆け抜けてゆくようなデフォルメが加えられていますが、その破天荒さをふくめて楽しめます。*2


アメリカ発祥のミュージカルは、ヨーロッパ産のコミック・オペラ、オペレッタ、レビュー、ボードビル、それにアメリカで生まれたミンストレル*3 などの影響下にすぐれた作曲家や劇作家を輩出し、独自の発展をとげたものです。だから、ミュージカルよりレビューのほうが生まれが先なんですね。ところで、宝塚歌劇は1914年に生まれたんですが、その13年後の昭和初期に『モン・パリ』というレビューを大当たりさせました。演出家がパリで直々学んだ人で、要するに宝塚はアメリカよりフランスびいきだったんでしょう。以来、ゴージャスで絢爛たるパリ仕込みのレビューが宝塚のひとつの伝統となりました。最近のことは知りませんが、宝塚では長らく第1部:ドラマ仕立てのミュージカル、第2部:ショー形式のレビューという構成が多かったように記憶します。


リボンの騎士』のフィナーレに再び目を転じると、電飾キラキラの大階段、大ぶりな羽根飾り、男装の麗人スタイルと、規模は小さくとも宝塚の伝統につながろうとしていることがよくわかります。さいわい、着席の方針は周知されてきているとも伝え聞きます。願わくば、娘。たち全員の顔見せ的なゆったりした歌と踊りに加え、美勇伝の3人が椅子を使って演ってみせたようなモダンでシンプルなソング&ダンス・ショーの趣向がもういくつかあれば、レビューとしての変化の楽しさが出てくるのにな、と思いました。あとは、最後の出演者全員の“パレード”でひとりひとりが観客席に向けておじぎをするときに、手拍子が万雷の拍手に変わり、自然発生的にスタンディング・オベーションになるようなことが、千秋楽までに起こればいいなぁ、と願っています。


このミュージカルは、生まれる前の「アメーバですらない」命の初期状態の娘たちが、無邪気だけれど重大な悪戯をして神様の罰を受け、魂の物語の登場人物としてかりそめの姿で地上をさまようことになる、という二重構造の導入部をもっています。フィナーレは、女と男、主役と脇役、善なるものと悪なるもの、それぞれが神様の手で娘。としての本来の姿を与えられる。本編と違う位相において、導入部とフィナーレは対応関係にあります。“物語は終わった。けれど、人生は続く”のです。
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*1:コメディアンや芸人が次々に芸を繰り広げる寄席の形式。

*2:ムーラン・ルージュの名物ダンスであり、宝塚も得意にしていた演目カンカンを、当時の踊り子たちのむせかえるような舞台裏人間模様とともに堪能したいなら、ジャン・ルノワールの傑作『フレンチ・カンカン』が飛びぬけています。甘美な歌と豊麗な群舞。モンマルトルの洗濯女ニニが花形ダンサーにのし上がってゆく物語とともに、ベル・エポックの感興があでやかに脈を打ち、ついにはわたしたちを丸飲みしてしまいます。ニニ役フランソワーズ・アルヌールのみずみずしさ! そして彼女が身につけてゆくコケットリー(大臣/吉澤ひとみの項参照)。

*3:黒人の歌やリズムを白人芸人がコミカルに真似た舞台芸。黒塗りのシャネルズ〜ラッツ&スターなども、起源をたどればミンストレルに行き着くはず。