身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

再見雑感

10日夜、初日以来となる『リボンの騎士 ザ・ミュージカル』を観てきましたが、いや、藤本美貴の魔女ヘケートには改めて惚れますね(以下、終始ネタバレ)。天から地上を睥睨(へいげい)するって感じとともに、魂を差し出してもいいというせっぱ詰まった人間ドラマに、気配をころして背後からそっと忍び寄るって感じがいいですね。そして、彼らの“願い”につけこんで、カタストロフィー(破局)のほうへと優雅に、冷ややかに誘惑する。正面の大階段や回転カプセルみたいなせり上がりをを使った舞台の天地、奥行きの使い方がぐっと生きるのは、魔女の存在あればこそだと思いました。あとは、闇を照らす赤いライトの妖しさがあのシックでゴージャスな衣装と照応し合っていること。黒と赤が魔女のテーマカラーですね。


ファンタジーに登場するお馴染みの魔女の帽子や小道具を身につけていないのに、人間から超越した存在感を、その栄光と悲惨をふくめてもっているのが素晴らしい。大臣と取引する初登場の場のミュージカルならではの掛け合いの高ぶりは、もはや言うまでもありませんが、自分が仕掛けた毒薬のてんまつを満足げなポーカーフェイスで見下ろしつつ、空いた玉座にちゃっかり座ってみせるところもゾクゾクします。サファイアと王妃が逃亡する嵐の場で、ほしくて仕方のなかったサファイアの女の魂を、背後にまわってあくまで優雅に抜き取るところも。ここでもヘケートは笑顔を封印するのですが、魂をもてあそぶというより、魔女が魂をいつくしむようなかすかな笑みを一瞬感じ、心が震えました。神様の粋な計らいを受けた大団円、高笑いや含み笑いはあっても禁欲的なまでに笑顔を見せなかったヘケートが、柔らかな温かみのある女の笑顔をそっと見せてくれます。


安倍なつみのフランツは、石川梨華のフランツが生一本で直情的なのに対し、理智の王子が図らずも恋をするってふうに見えました。同じ“義”を重んじる王子でも、安倍バージョンが自己完成をめざす太陽神アポロン・タイプなら、石川バージョンは情趣と本能で突っ切るディオニュソス・タイプ。安倍さんのほうも堪能しましたが、もし魔女がちぎりを結ぼうと食指を伸ばすなら、石川さんのフランツ王子のほうかもしれないな、とわたしは思いました。
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