身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

千秋楽・昼公演 雑感

楽におなり 羽のように軽く 砂のように白く。

  • リボンの騎士 ザ・ミュージカル』劇中クライマックス前、大臣を急襲するサファイアに小春ちゃんの息子が止めにはいるところで、女装衣装がはぎ取れず、白い帷子一枚の芝居にスムーズに移れないハプニングがあった。が、楽日をむかえた演者の気合いをトータルに感じさせる充実の舞台だった。
  • サファイアとフランツのダンス・デュエットが進化していて驚いた。テーマ曲をムードたっぷりにアレンジしたミュージカル向け華やぎのインスト・ナンバー、ステップを踏むつま先から手の指先の表情まで互いに求め合う心をしなやかに感じさせ、高橋愛石川梨華の息がぴたりと合っていた。エレガンスを極めたとろけるようなダンス・デュエットといえば、フレッド・アステアシド・チャリシーの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」(『バンド・ワゴン』)があったよなぁ、とはるかな連想に一瞬心をさまよわせてしまうほどのでき映えだった。
  • 久しぶりに通しで観た石川梨華のフランツは、芝居に緩急がつくようになったせいか、直情型生一本のよさはそのままに王子らしい丸みが加わった。演出家の木村氏がムック「レプリーク」にてわざわざ名指しで誉めているように、石川梨華はフランツの役の心をしっかりつかんでいるから、どんなに熱血しても野暮にならない。ミョーに惹きつける肉感性があるのだ。
  • 藤本美貴のヘケートの、ひんやりとした気品すら感じさせる“夜の女神”っぷりに、改めて圧倒される。とくに、1幕最終場の祝典、罪にさいなまれた王妃をやさしく狂気へといざなう魔性! 神話の“ヘケート”をモチーフにした異才ダニエル・シュミット*1 の秀作『ヘカテ』のローレン・ハットンには、尻からくずおれるような妖艶さがあったが、得意の絶頂から敗北を知った藤本美貴のヘケートが膝から崩れるさまも、とてもなまめかしい。
  • フィナーレでは、娘。のかかげる羽根が合わさった白く大きな扇をまず背景に(みんなの羽根で飛び立つイメージかも)、小川麻琴がソロをとる『青空がいつまでも続くような未来であれ!』の千秋楽仕様の趣向も。大階段でコーラス隊の娘。が花道をつくってまこっちゃんを迎え、そして送る、歌終わりは一人一人抱き合って……という素敵な演出でした。カーテンコール後のあいさつでは、「昨日言えなかった」こととしてマコトが“5期5周年”を報告。エビラさんがちょうど両サイドにいた愛ちゃんとガキさんに、あの独特の人なつっこい笑みを浮かべて祝福し、感極まってふたりが涙ぐむ一幕もありました。まこっちゃんはいまにも泣きそうなのをぐっとこらえ、「あと1公演、かっこいい終わり方をしたい」と笑顔で締めくくりました。

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*1:さきごろ逝去したスイスの超異能派。ヨーロッパ・デカダンキッチュなミュージカル・テイストを掛け合わせたような惑溺型の演出が好みでした。