身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

家臣ナイロン/小川麻琴

私は良い人すぎる。秘密を守るのに慣れてない。

  • 大臣の息子と戯れ、はしゃぐ姿や、中世という時代背景から家臣ナイロンは“子供”だとする考察が《こちらのサイト》にあって、それはとても説得力がある。息子よりちょっと年上の子供。もちろん、血が繋がってるわけではないだろう。王、王妃、サファイアという三角形の家族を一方におくと、大臣、息子、ナイロンという三角形は疑似家族ということになろうか。ナイロンが大臣の償いの旅のお供をするのは忠誠心ゆえではなく、疑似家族的な親密さあればこそと考えた方がたしかにピンとくる。
  • すると、ふたつの“家族”に、ある対照性が見えてくる。一方は世継ぎのサファイアが女であるという、もう一方は毒を仕込んだのは大臣であるという重大な秘密をもっている。その秘密という罪にさいなまれているのが一方は王妃であり、もう一方はナイロンであるということだ。王妃のように罪の意識に錯乱しはしないが、フランツ王子に毒つきの剣を差し出すところのおののきや、リボンの騎士に遭遇するところのうろたえぶりは、罪の意識をもちながら腰が引けた形で秘密に加担している者のそれだろう。ならば、王妃がサファイアを守る母であるように、ナイロンは大臣の息子の子供仲間であると同時に母親的役割も果たしているといえないだろうか。
  • そうしてみると、「いま毒って言った?」といまにも父の陰謀に感づきそうな息子をナイロンが折に触れ、いっしょに戯れながら、知られたくない情報から必死に守っているふうにも見えてくる。なにより、小川麻琴がときにはしゃぎ、ときにすっとぼけ、ときにうろたえ、ときにすっくと立って演じるナイロンに、少年性と同時に母性的なやさしさを垣間見るのは、なんだか愉しい気分になる。
  • リボンの騎士 ザ・ミュージカル』は、いわゆる“歌ものミュージカル”の範疇に属する。いまミュージカルの世界のメイン・ストリームはロンドン発の歌ものミュージカルといってもいいだろう。宝塚歌劇団をわずかな例外として、東宝にしろ劇団四季にしろ日本ではミュージカルは“歌もの”として根づいたといってもいいかもしれない。日本では、歌い、なおかつ踊れるアクター(アクトレス)がきわめて希少というお家事情があるから。しかし、ブロードウェー・ミュージカルの歴史をひもといてもいいし、ハリウッド黄金期のミュージカル・コメディを訪ねてみてもいい。“ソング&ダンス”としてのミュージカルの醍醐味にたちどころに圧倒されるだろう。
  • 小川麻琴のナイロンにはソロがもう1曲ほしかったよね、という話をよく聞く。わたしも同感だ。加えて言えば、それはソング&ダンスのナンバーにしてほしい。小川麻琴のソロ・ダンスの魅力に思わず拍手がくるようなナンバーに。わたしは『リボンの騎士 ザ・ミュージカル』につんのめるように魅せられた人間だが、ダンスの見せ場がわずかにサファイアとフランツ王子のデュエット・ダンスのみ、というのはいかにも惜しい。もちろん淑女たちの群舞があるのだが、ミュージカルとしてはいささか物足りない。今回、宝塚から客演(客演という言い方はちと違うか)してくれた箙かおるも、歌に定評のある方だった。ダンスの不在を補完する人材こそ、小川麻琴だったのに。
  • 3年ほど前、いまは亡きあるサイト*1 が小川麻琴のダンスの魅力を連続写真を交えて分析していて、実に面白かった。「シャボン玉」で腰や上半身を反って元に戻すときの「しなり」のある動きとか、足を蹴り上げるときの「滞空時間と飛距離」とか。「そうだ! We're ALIVE」で一端腰を落としてからコブシを突き上げるときの「エネルギーの蓄積と開放」の流れとか。
  • ナイロンが滅亡間近の自国を実感して「芯から腐ったリンゴが自分の重みで落ちてつぶれるだけ」と捨て台詞を吐く場面は、緩から急へ、クライマックスへなだれ込む分岐点だ。滅亡への道を予感しながらそれにブレーキをかけることもできず、陰謀にズルズル加担してしまった者の嘆きや自分への歯がゆさ、それでも大臣とその息子を見捨てられない想いを、ここで小川麻琴がソング&ダンスにぶつけるナンバーがあったなら。静から動へタメの効いた弾力性をほこり、緩と急の流れが躍動的で、かつ緻密な麻琴ダンス。その集大成を観るのにはぴったりの場面だもの、過ぎた夢をつい見てしまうのだ。
    • 今夜の娘DOKYU EXTRAは名場面の連続でした。2幕1場、牢番のピエールたちがサファイアと王妃を歌で見送る「手をふって 見送ろう 見えなくなるまで」が舞台裏にも聞こえてきます。そのタイミングにシンクロするように、出番を終えたばかりの愛ちゃんが舞台への準備に向かうまこっちゃんを手をふって見送るところ、とくに素晴らしかったですね。見送ってからふっと肩を落とす仕草も。グッときました。

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*1:たしかSuper Baby's Breathというサイト名だったと思います。間違っていたらごめんなさい。