身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

外堀を埋めるシリーズ 3

すたれた遊園地のつむじ風。

  • いきなりミュージカルの聖地・日生劇場での公演となった『LOVEセンチュリー』は、いろんな事情を抱えた娘たちが「約束の場所」でもう一度自分たちの気持ちを確かめ合い、さまざまな現実と衝突しながら夢を追う、という『I WISH』PVとまったく同型の物語だった。約束の場所は「最後のショー」を目指すつぶれかけの遊園地センチュリーランドとなり、PVでは虚と実の一人二役だったのが、ミュージカルでは虚実皮膜をねらって娘。それぞれが実名実年齢の役となる。吉澤ひとみはスカウト目当てにセンチュリーランドに来て空席だらけの客席に「こんなんならASAYANのオーディション受けとくんだった」とブーたれるお気軽女子高生ひとみ役、石川梨華はうまくいかないのをなんでもかんでも自分のせいにして「人間って変われないね」と弱音を吐く梨華役*1 というふうに。
  • 春コンで中澤裕子の卒業式を終えて、稽古に入ったのが本番2週間前。顔合わせ、読み合わせと、すべてが一からはじまるという超強行軍だ。日生劇場ゆかりのミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』のタイトル曲を課題に、ステップを踏みながら娘。が発声練習をする姿がとても印象に残っている。ボイトレをこなしながら、1日2曲覚えるのがノルマという。しかも、初めてのミュージカルでわからないことだらけのなか、ダンスレッスンと芝居稽古を一気に体にたたきこまなければならないのだから、もう笑とけぇ笑とけぇとでもいうしかない。
  • いや、娘。とコラボして後にあの『Chain! Chain! Chain!』を撮ることになる藤代瞑砂の埋もれたままでは惜しい秀作写真集『THE LOVE CENTURY』を見ると、毎日10時間の稽古に放心したように食事を取る後藤真希石川梨華らが目に飛び込んできて、とても笑うどころじゃない感じ。目線の先を切って振付を確認するごっちんの背中側にスタジオの白く殺風景な空間をたっぷりとった見事なスナップがあって、見えないプレッシャーを背負って大鏡に向かっているような張りつめた美しさをそこに感じる。余談になるが、戦いの場におもむく娘。の背中から肩口を、ある種の静けさとともにニュアンス豊かにとらえた写真集はほかに類がないと思う。
  • 生田スタジオから日生劇場に移って2日間の通し稽古を終えると、もう本番10分前。一番手にソロを歌うことになる吉澤ひとみが、百万回台詞を繰り返したという台本をまだ手放せずに「怖いんだもん、もーっ」と珍しくパニック状態だ。こうして幕を開いたミュージカルは、それぞれのソロ曲があってその間にグループ曲が3,4曲挿入され、大団円の遊園地ファイナル・ステージに終わる、という単純きわまりないナンバー構成で、『リボンの騎士』でわたしたちが体験したように、歌によって役と役が響応し互いの関係がダイナミックに変化する“有機体としてミュージカル”などまず望むべくもない。
  • それでもうれしいことに、娘。が自分自身のキャラクターと分かちがたい役を演じることからくる感情の生気があふれていた。そこから立ち上がっては消えてゆくつんく夏まゆみ共作の色濃いソング&ダンス小品集ににっこりしたり涙ぐんだり。「わたしはダンスに命かけてる」ってチンタラ娘たちとの練習に愛想を尽かし、そのなかの一人なつみにピンタを食らわす真希*2 に、高みを目指すばかりがダンスじゃないと応酬する道産子娘・圭織の怨み節ナンバー「わかんねっしょ!」とか、両者の板ばさみになって遊園地の社長の娘・圭がしっとり歌うジャズ調ナンバー「おじいちゃんのつくったセンチュリーランド」とか、いまでもなにかの拍子にくちづさんでしまう。
  • リボンの騎士』にいたるまでの娘。ミュージカルはこの頃どうも十把ひとからげに切って捨てられるきらいがあるが、つけヤイバのテーマ性に走らない“等身大”*3 のアイドル・ミュージカルとして『LOVEセンチュリー』は捨てがたい出来だと思う。苛酷な稽古スケジュールを一気に突っ走った勢いそのままの全身表現*4 が、不安と気合いに揺らぎつつ初々しくそこにはあったのだ。演出の西川信廣はロイヤル・ナショナル・シアターで研鑽を積んだ文学座所属の気鋭の正統派で、のちに東宝ミュージカル『マイ・フェア・レディ』も手がけている。これでストレス太りしちゃったよっすぃーが「21世紀だってのに〜」と歌い出す21世紀最初の春、けれど、わたしが娘。にもっとも“ミュージカル”を感じた瞬間は『LOVEセンチュリー』とはまた別のパフォーマンスの場にあった。
    • はてなのユーザー名のかしらm〜n対象者の日記に、ここ数日“サーバーエラー”の障害がおきていたようです。メンテナンス作業、今夜いましがた、やっと完了したらしく(と思ったら、また夜中から再メンテナンスしていた模様)。訪れてくださった方、申し訳ありませんでした。

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*1:そういうのが当時のネガティヴ梨華ちゃんのリアルだった。

*2:当時なっちとごっちんはライバルと目され、仲が悪いというあらぬ噂も絶えなかった。そういう虚実皮膜の生かし方。

*3:こういう紋切り型の言い回ししか出てこないのがくやしいが。

*4:安倍なつみは言っていた。自分が稽古のなかでどう変わっていけるのか、おなかの底から声いっぱい体いっぱいに伝える全身表現を楽しみにしてほしい、と。