身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

第一回ハロプロ新人公演 とりの刻 雑感

  • 日生劇場の『何日君再来吉澤ひとみ初日の回から渋谷へと流れたかったのだが、仕事が終わらず断念、渋公改めC.C.Lemonホールに直行する。「わっきゃない(Z)」のお人形タップや、タッパを生かした矢島ちゃんの発汗ダンスが脳裏に焼きついて離れない℃-ute単独コンの上昇力に続けとばかりに、なかば匿名性をまとった陽性のマグマが、ハロプロの地表へとぐんぐん突き上げてくるのを実感できてうれしかった。エッグといえば、チョロチョロとした情報を必死でかき集めるって努力が一部のサイトによって長らくなされてきたわけだが、今日一日だけで、両目をいっぱいに開き、両手をいっぱいに広げても8割方こぼれてしまうような圧倒的情報量。総勢36名が群舞をみせるにはこのホールのステージは狭すぎ、フォーメーションを変えるたびに女の子同士がぶつかり合う。ぶつかり合っては三々五々に散ってゆく「渦巻き星雲」みたいなパフォーマンスの運動感が、会場の人いきれと溶け合って暑苦しくもまた爽快だった。
  • エッグについてはロビン・花音・憂佳それぞれの小さな演劇から興味をつないだので、わたしの視線はまずそのあたりを泳いでしまう。「GET UP! ラッパー」の福田花音ちゃん、背が低い分、足は誰よりも高く上げ、腰は誰よりも大きくひねるよっ、にょひひ(^з^) がモットーみたいな、花音流ラッパー・ダンスがアンサンブルの破調をなしていて、そこが面白い。とその隣では、今冬のワンダコン「愛すクリームとMyプリン」のバックダンスが一躍脚光を浴びた森咲樹が、自分の英語力で訳せば「笑顔・はい・ハダカ」になっちゃう娘。の曲の意味を求めて家族会議をお父さんに提案する持ち前の生マジメさで、「セクシー」を独自解釈したダンスに取り組んでいる。時東ぁみ初ライブ『ザ・中野サンプラ』の「制服」を聴いて以来*1、わたしはモリサキちゃんの素直でノビのある歌い方のひそかなファンでもある。
  • オトムギの舞台によるレッスン遅れと風邪の二重苦の末やっとつかんだ前田憂佳の大事な初ライブの火照りを、あの独特なミルクチョコレート・ヴォイスを、「絶対解ける問題×=ハート」や「大阪 恋の歌」では体感できた。その隣で目につくのは『34丁目の奇跡』でヘンリカ役を花音と競った小川紗季。どうもこの公演は、福田花音には森咲樹前田憂佳には小川紗季、ジュンジュンにはリンリン、有原栞菜には光井愛佳みたいに、競い合う関係のライバルを意図的に作りだす、楽曲ごとの「キャスティング」を仕組んでいたように思える。わけても有原・光井が二枚看板の重責に応える「舞台映え」を誇っていて、とくにわたしには、やや練習不足の感が歌に現れていた光井ちゃんより、栞菜の健闘が光ってみえた。℃-uteでは自分の目立たないポジションに「みんな高嶺の花。栞菜だけが浮いてる」なんて弱音をぽろりと漏らし、矢島リーダーに「浮いてないよ!」と叱咤される有原ちゃんだが、古巣のエッグに帰って期するところがあったのか、にごりのない暖色「カンナ色」をステージから放ちまくっていた。オトムギの主宰・塩田泰造さんによると、『寝る子は℃-ute』8時間稽古のあとの公演だったらしく、稽古の高揚感をそのままステージに持ちこんだのかも。
  • そんな有原・光井を向こうに回し「ピタクリ」でごっちんポジションを堂々と張ってみせたのが小川紗季ちゃんだ。次々世代あたりを担いそうなちっこくて強力なハロプロ隠し球。ロビンのいるザ・ポッシボーのことにも少し触れたい。ザ・ポッシボーの活動をよくは知らないが、近場の亀戸のマーケット広場にたまにイベントで来てくれると、散歩気分で出向いたりした。しっかり者の仕切り屋ロビンの隣には、まったりした時間を生き甲斐とする諸塚香奈実がいて、その取り合わせがやたら可笑しい。ダンスは雑ぱくでワンテンポ遅れ気味、宙を見つめてものぐさそうなのに時に人なつっこい笑みをもらすモロリンに、年下のロビンの突っこみは容赦がない。自称ダイコンズのモロリンと自称ゴボウズのロビンという凸凹コンビは、広場を走る小型汽車の警笛やのどかに浮かぶ雲とあいまってマーケット広場の日常空間を童話めいた色合いに染め、時を忘れさせてくれる。その一方で、こんなゆるいイベントに関わっていて『コトブキ珈琲』の表現者ロビンは満足なんだろうか、とふと思わないでもない。だからなのか、ロビンとモロリンともどもに見違えるばかりの気合い乗りをみせてくれた今回の本気度がやけに新鮮でびっくりした。最近の《つんく♂tv》の、おっとり頑固な諸塚香奈実も捨てがたいけれど。
  • ちなみに、松田聖子のカバー曲「制服」を中野サンプラで森咲樹とデュエットしたのが諸塚香奈実で、こんなふうに話題を横滑りさせていくうちに円をなして元に戻ってくる関係性がエッグの魅力のひとつだろう。本公演も中心を見つけるよりも、視線を横滑りさせながら自由連想みたいに想念を遊ばせるのがいちばん愉しい見方のように思った。ときおり、真野恵里菜吉川友といったフォトジェニックな姿態に目が釘付けになったりもするのだが。もともと映画用語の「フォトジェニー」は、必ずしも被写体の美人度に対応しているわけじゃない。おのずとカメラに愛され、カメラを通して新たに価値を与えられる事物や人の放射力にかかわるもの。体型は痩身ロビンと田舎づくりモロリンくらい違うが、真野・吉川にはちょっとファム・ファタールに仕立てたくなるような「色香」があった。どうやら真野ちゃんは演劇への野心があるみたい。
  • ほかにも、「大阪 恋の歌」のダンスに生彩をみせた橋田三令、橋田さんとは対極の哄笑を誘うダンスが素晴らしい前田いろりん、みつけるとなぜかつい恥ずかしくなってこっちで視線を逸らしてしまう一生懸命なコレちゃんなど、見どころは尽きない。娘。コンが、出来のよくない寸劇部分などを切りつめて歌とダンスで「疾走」するというコンセプトを見いだしたのは、いつからだったか? 2003年秋の『15人でNON STOP!』あたりにその萌芽があったような。*2 たしか娘。コンでは今世紀に入ってまだ歌われていない「ダディドゥデドダディ」が今回の新人公演のオーラス曲だが、そこでエッグたちがみせた感極まり方は、吉澤ひとみ流に言うなら、涙は流れてもジェット機の速度で、という流儀。あくまで陽性を貫いたソング&ダンスの奔流がとても好ましい新人公演だった。終演後、みんな大号泣のなか、吉澤仕込みの光井ちゃんだけが涼やかに笑っているさまが想像されるのも楽しい。*3

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*1:ライブを観たのではなく、「制服」を聴きたいためだけにDVDを買ったのです。

*2:評判はあまりよくなかったように覚えているが、「好きで×5」などがフィーチャーされたこのツアーがわたしはいまだに好きで、好きで。

*3:DVD「History of EGG」の発売に気づかなかったことだけが心残りです。