身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

娘。ツアー2007秋 9/23夜(大宮)

  • 柱状の縦の線と階段の横の線、ゆるやかに弧を書くような斜めの線だけでできたシンプルな抽象空間。白味がかった照明に赤が混じり、中央のタイトルロゴのBOMBの字がカラフルに浮かび上がる。一見アメリカン・シックスティーズの世界だと感じる。緩慢なストリングスの「女に幸あれ」が娘。の登場とともに一転、快活でダンサブルなポップ・チューンに。ボンキュッ!ボンの歌詞からツアー用の新曲であるとほどなく知れる。それが、今回のツアー・ライブをトータルに特徴づけていたように思う。色鮮やかなネオン管と紫のスポットライト。ロックンロール満載の『アメ・グラ』から郷愁を取り去って、もっと明るく脳天気にした感じ。「SEXY BOY」「Hand made CITY」へと続く、突きぬけた明るさはむしろ、いまアメリカを熱狂させているミュージカル映画『ヘアスプレー』に通じるものがある。
  • ブロードウェイ発の『ヘアスプレー』に少しだけ触れておこう。ブラックパワー台頭の1960年代、守旧の街ボルチモアでは、人気音楽番組が打ち出した週に一度のブラック・ミュージックの新風「ニグロ・デイ」もTV局の上司(しかも元ミス・ボルチモア!)の手で握りつぶされる始末。そういう新時代を前にしたよどみを、黒人音楽&ダンス大好きなちょっと太めの白人少女トレイシーが、TVオーディションでめきめき頭角を現してほがらかに蹴散らしてゆく。という物語だ。白人音楽と黒人のR&Bが出会い、色彩も鮮やかにリズムリズム、ダンスダンスの肯定のエネルギーとなって炸裂する。つんくPはアメリカの劇場か日本の試写会でこれを観て、今回の娘。のツアー・コンセプトを決めたのではないか? と、つい空想をめぐらせてしまう。*1
  • ジュンリンの「好きな先輩」から「シャニムニパラダイス」「いきまっしょい!」へと、一気呵成のセットリスト、群舞の流動性とともに、体が弾む、心も弾む。とくに、亀井絵里やジュンジュンの肉厚の弾力性は、トランポリンよりはるかに瞳を刺激する。幕間の余興として一級だった人形劇の後、さゆみんと小春をマスカレードのお相手に従えた、高橋愛のこぶしの効いたソング&ダンス・ショウ「WASSUP!遠慮がテーマ」にもしびれた。足を挑発的に蹴り上げたときの下履きのブルーが、まぶしいくらいに目に灼きつく。ここから「HOW DO YOU LIKE JAPAN?」「シャボン玉」へとシャウトしてゆくステージの温度変化も好きだ。オーラスに回帰するツアー・テーマ曲まで、高橋・新垣体制の新生娘。の「離陸」としてスキッとしたナイス・トライアルだったのではないか。まずは拍手を送りたい。

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*1:わたしは8月アタマ頃に『ヘアスプレー』を試写で観ました。映画的にどうのというより、真夏の暑気払いの爽快感に魅了されました。この底抜けの明るさ、楽天の力は、ここ20年くらいのミュージカル映画になかったものです。しかも、この大ミュージカルの原点はジョン・ウォーターズの小さなカルトムービーで、往時のカウンターカルチャーのポップ&キッチュな意匠とも通じ合ってる面白さがあります。ジョン・トラヴォルタが主人公トレイシーの母親役(!)で怪演しています。日本では秋まもなく公開されるはず。