身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

リズミックタウン 11/29 夜(池袋)周辺ネタ

  • 福田花音・初主演の舞台がぶじ千穐楽を終えたようですね。最後はスタンディング・オーベイションだったとか。歌、ダンス、演技。自分が積み上げてきたものに対して“完璧主義者”であろうとする小さな女優・福田花音のプロとしての姿勢を、さらに思い知らされました。なんせ映画『嫌われ松子の一生』で主演の中谷美紀の子供時代、親の笑いをとるために変顔を武器にする歌大好き少女を好演した奥ノ谷佳奈ちゃんが、スモールタウンに棲みついた妖精モモに扮していて、やけに目を惹くんです。そんなキャリアの子をさしおいて、歳もたいして違わない花音(1つか2つ上のはず)が主役のメイを演じて、わたしを含めたあちこちのお客さんの頬を濡らしてるんですからね。
  • 『リズミックタウン』をミュージカルと呼ぶにはいくらか抵抗があります。でも、花音ちゃん唯一のソロ曲はクリスマスに向けた願いとして、ホントのじぶんをメイがはじめて表白する、つまり役の感情が歌となると同時に、歌が役の感情を動かし、物語を動かす、劇中もっともミュージカルな感興を湛えたナンバーといえます。福田花音がいかにこの「メリー・リトル・クリスマス」を丁寧に、メイの心をわたしたちに差しだすように声を響かせ、こめかみがきゅーんとなるほど劇場内を澄みわたらせたことか! しかも、この曲は黄金期のハリウッド・ミュージカル『若草の頃』で、ジュディ・ガーランドがクリスマスの日、愛する町との別れを予感しながら小さな妹に語りかけるように歌った由緒ある主題歌です。いまでは、すっかりクリスマスシーズンの名曲としてスタンダード化していますが。


  • ちなみに、歌を聴きながら涙を流す妹役は当時、天才子役として知られたマーガレット・オブライエン。70年前の不滅の表情の片鱗がここに灼きつけられています。花音ちゃんのメイがこういう好篇の名シーンとすーっと結びつく感じがホントにうれしい。さて、歌手としての成功を夢見ながらメイを育てたママには「ピープル」という持ち歌があって、今回の舞台では宝塚出身の渚あきさんがしっとりと歌い上げています。これも実はミュージカル発の名曲。ブロードウェイ・ミュージカル『ファニー・ガール』のハイライト・ナンバーで、当たり役となったバーブラ・ストライサンドの熱唱で知られています。『ローマの休日』や『大いなる西部』を撮った御大、ウィリアム・ワイラー監督のもとで後に映画化もされました。その映画バージョン。


    • なっちがブレヒト作、クルト・ワイル作曲の『三文オペラ』の舞台に立つというニュースもすごいですね。映画監督というのはすべてを撮り終わった編集中に女優のよさを新たに発見するので、気に入った女優さんはかならずもう一度、次作に使いたくなる、ってなことを、かつてトリュフォーが言っていました。なっちはどの段階で宮本亜門氏に気に入られたのだろう。今度こそは、戯曲の出来のいいわけがきかない舞台で、歌える女優・安倍なつみをどう使いこなすのか、これは楽しみです。

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