身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

ワンダフルハーツ 革命元年 1/5(中野)

  • 「年明けでいいですよぉ」という相手の温情めいた言葉がクセモノで、言外に年末年始のうちにやっといてね! と言われてるようなもの。そんな因果な仕事のわたしにとって、やはりお正月はハロコンがなければ明けません。今年のワンダ冬好演はセットリストの中盤戦が充実していた。この前のイベントで「大スターになってね」と伝えたとき、ダイヤの矢みたいな視線でうなずき返してくれた真野恵里菜は名曲「ラッキーオーラ」に続いて「ラララ-ソソソ」も優れもので、なんの加工も添加物もなく歌の芯を届けようとする姿勢の真っ直ぐさが、弾き語りの危なっかしさを含めてとても好ましく、いとおしい。無色が似合う「ラララ-ソソソ」が終わると一転、最上段でポージングするBUONO!が歌うのは、カラフルな水玉ワンピ衣装とサイケポップなバック映像の意匠がとびきり似合う「ロッタラロッタラ」! ラ行ソングの極めつけだ。アイドルポップスとハードロックの幸福な出合いを思わずにはいられない。BUONO!は昨年夏1日限りの横浜BLITZでのライブも圧倒的だった。なかでも、生バンを従えた「れでぃぱんさぁ」が忘れられない。大都会のサバンナに吠える、可愛くて嗅覚鋭敏な3匹の野獣。2月の日本青年館が楽しみでならない。
  • メインパートのふたりが入れ替わるという新たな試みでわたしがいちばん面白かったのは、菅谷梨沙子が愛ちゃんパート、矢島舞美がれいなパートを歌った「みかん」だ。肉厚だけど爽やかな「夏みかん」みたいだった。今年のワンダ公演は、このふたりに高橋愛を加えた3人に個人的な特別賞をあげたい。矢島舞美はエッグのエース級を一手に従えた「夏DOKIリップスティックス」もうれしかったが、℃-uteの「即抱きしめて」や新曲「FOREVER LOVE」での巧拙を超越した(でも確実に上手くなってる)全力ダンスに自然と顔がほころんでしまう。とくに有原栞菜を欠いた夜公演での、中島早貴の白熱ぶりに共振するようなダンス合戦は見ものだった。矢島舞美のダンスが燦々と降り注ぐ陽光なら、高橋愛のダンスは陰陽に富んだ闊達の境地をめざす。今回の「Mr.Moonlight 愛のビッグバンド」は、岡井千聖の女の子ぶりやエッグ関根梓のコーラス隊抜擢を含め見どころ満載だった。昨春の娘。コン『シングル大全集』を発展させ、外股をスウィングするように女の子の間を練り歩く愛ちゃんのジゴロ役は、梅田えりかの肩にぶら下がるみたいに手をかけたり、岡井ちゃんのあごを指でひょいと持ち上げたり。オリジナルの吉澤ひとみがタッパのあるアイリッシュ系の粋なプレイボーイなら、愛ちゃんバージョンはめいっぱい粋がってるイタリア系の小男(ジョー・ペシみたいな)という感じがして、そこが面白い。
  • 夏ドキとミスムンにハサまれた清水佐紀夏焼雅熊井友理奈・菅谷の「バカにしないで!」も見応えがあった。モノクロームの映像処理を生かした菅谷梨沙子のソロ・パート、暑くるしい恨みごとがクールな啖呵の切れ味に炸裂するあの終わり方が快感だ。あの表現は昨秋のBerryzコン『ベリコレ!』では、りさこ入魂のソロ曲「LEAL LOVE」でさらなる昇華をみせ、去年のわたしのハロ系ライブ体験のピークを形づくっている。『にょきにょきチャンピオン』を頂点に右肩下がり、もう行かなくてもいいかな、なんて思っていたわたしのベリコン熱も一気に跳ね上がった。菅谷梨沙子はキッズとしてのデビュー最初期、『湘南瓦屋根物語』で日本家屋の生活空間に突然まぎれこみ、ヘンな大人たちにおだてられたり、すかされたり、嘘つき呼ばわりされたり、さんざんな目にあう帰国子女の詩子ちゃん役以来、ずっと気になっていた。笠木望監督がキッズ内で「いちばん居心地悪そうにしてたから」主役にしたというあの子が、ワンダ内で指折りの歌の表現者になろうとはね。いつまでも女の子をお飾り扱いするモテ男くんに最後通告した後の「REAL LOVE」の孤独な“放心”が、佳曲「恋してる時はいつも…」のメランコリーへと溶けてゆきそうでなお感情の不協和を残した流れ――近くに仲間がいるのにこのひとりぼっちはなに? という感じは、いま思い出しても鳥肌ものだ。思えば、ホーム・コメディ『湘南瓦屋根物語』でもブキミな大人たちに庇護されているはずの詩子ちゃんが、一見何も考えてないみたいで実は外部の目で大人どもを見守り観察してるごとき、輪をかけてブキミな笑みの持ち主なのが素晴らしかった。菅谷梨沙子の歌には、歌のパッションのそのひんやりとした味わいには、つんくPの有り体な意図や価値感をも転倒させる力があると思う。
  • 充実していた昨秋の娘。コン『リゾナントLIVE』を引き継いだ高橋愛新垣里沙田中れいなの「Take off is now!」から、恋レボを経て「グルグルJUMP」のお祭り空間にいたるところが、終盤では好き。ガキさんやれいな、とくに愛ちゃんの下半身の落とし方、せり上がり方が色っぽい。あのスネーク踊りは、昨秋の帝劇でソニンが歌唱と演技にわが身を燃やし尽くし、カーテンコールでは文字通り抜け殻と化した『ミス・サイゴン』のみごとなオープニング、旧サイゴンのキャバレーで米兵相手に見果てぬ夢をみる女たちのポール・ダンスを連想させる。「グルグルJUMP」が悩ましいのは求心力がない分、わたしの視線も外へ外へと向かい、エッグの前田憂佳やら福田花音やらみんな恥ずかしそうにがに股でワッハハてやる羞恥ダンスばかりを追ってしまうことで、大人びた12歳・関根梓がリアル子供になってやけに楽しそうなのが発見だった。オッス君が「楽曲のイメージを120%理解して踊ってくれてる感じ」という嗣永桃子のダンスは残念ながら昼夜とも見逃した。でも、大人っぽいなまめきからグルジャンの子供たちの哄笑へ、という振り幅がいいよね。「雨が降らない星では愛せないだろう」は、初聴きの夏ワンダや秋の娘。コンでの感銘は蘇ってこなかった。「革命元年」と銘打つからには、吉川友北原沙弥香*1 といった次代の実力派、あるいは伸びしろマックスの関根梓でもいいのだが、聴かせどころでエッグがソロをとるような下克上をちょっと期待していたのもあるんだけど。

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*1:北原沙弥香は受験仕様でリハの時間を切り詰めたためか、MilkyWayのあとずいぶん中抜けしていた。