身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

未知の女優、女優のみち vol.2

真野恵里菜→K・ブランシェット→アンジェリーナ・ジョリー

  • ハロメンのなかでこのところいちばん多忙に働きまくっているのは、去年の暮れが里田まいなら、年始めは真野恵里菜ではないだろうか。菫色や桜色などただひとり色違いのコスチュームで、シンメの中心に立つことも多い異例の扱いだったワンダコン中野が終わると、翌日が『東京少女 真野恵里菜』のクランクイン。佐々木浩久監督のブログ《万事快調》によると、「裏稼業」みたいに「冬は家を出る時まだ暗いうちに家を出て」、「これがフィルムだとこの4倍くらいの時間がかかるんじゃないかと言う感じ」のDV撮影の素早さで、オールロケの撮影を正味23分の1話分3日でアップさせる、というハードスケジュールだったらしい。クランク・アップ(残りの3話分は後日、佐々木さんより若い監督で撮るみたい)のあと、真野ちゃんはたぶん1日オフがあって、その翌日はエルダコン特別出演だ。音楽ガッタスのエッグメンと幕間に旧交を温めて。勝負の年がもう始動しているという感じですね。
  • 前後の佐々木監督のブログをまとめると、「僕がいままで撮ってきた中江さんの脚本の中では一番想いがこもっている」「なかなか手ごわい脚本」が描くのは「家族の行き違いが生むドラマ」。「とにかく自然体で演じきることが大事」な「脚本設定が難しい役柄」に対し、「勤勉努力家で負けず嫌いなところもある」真野恵里菜は「人間としてとても躾が行き届いた」本来のもち味を生かしてがんばった。とくに最終日夜、いちばんの難関の長回しカットには、父親役の上手い役者さんに「どんどん引っ張られて新人らしからぬ芝居で素晴らしかった」。「このまま曲がらないで」「芸能界の気風に染まら」ず、「いつまでも真っ直ぐ育って」ほしい、「一緒に仕事をしていてとても気持ちいい人」だったという。一方の真野ブログでは「今回のお話、ちょっと難しいけどなんか楽しい」、現場は「ギャグがいっぱい飛び交」う「和やかなムード」で「佐々木さんはすごくやさしくてアドバイスもたくさん」してくれた、「もっともっと演技の勉強がしたいってすごく思った」とのこと。監督と女優の相性のよさといえばいいか、ちょっと嫉妬したくなるような現場の楽しさが双方から伝わってくる。ちなみに「中江さん」というのは、アイドルから女優、女優から脚本家と、歳を重ねるごとに聡明に転身してきた中江有里のことだ。
  • 佐々木浩久監督は衆目に無視されたデビュー作『ナチュラル・ウーマン』(ふたりの女が寄り添って互いをまさぐる革製のソファのギシギシいう音が、いまだ耳に残っている)のころから、気になる異才だった。代表作というと、たしか新宿テアトルのレイトショーでロングラン記録をつくった『発狂する唇』になるだろうが、この映画で妖しく可憐に輝いてみせた三輪ひとみと同じく、ホラー系のカルト的な存在に祭り上げられたのは、もしかして不幸なことだったかも知れない。むしろ注目すべきは、アクションやコメディの資質をもった得がたい才能ということで、生真面目な心理主義や泣かせの演出をきらってミュージカル表現に飛躍したり、ときにドラマがハチャメチャに空中分解したりもするのだが、基本的にはショットが脈打つような、緻密で勢いのある映画演出をするひとだと思う。低予算・早撮りの方法論をちゃんともった監督さん。『東京少女 真野恵里菜』第1話は、すでにおよそ25分の編集ラッシュが監督のパソコンにダウンロードされ、これから編集の詰めに入るところみたい。「映像的には大満足の仕上がり」らしく、期待が膨らむ。ところで、BS-iを観られる環境にないわたしは、どうすればこのドラマにありつけるのだろうか。
  • お正月映画はいま公開中の1弾より第2弾のほうが充実する、というのは毎年恒例のこと。第2弾のなかから、お勧め作を最後にふたつ挙げておきます。まずはデヴィッド・フィンチャー監督が『セブン』『ファイト・クラブ』以来、ひさびさにブラッド・ピットと組んだ『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2/7公開)。といってもスリラーではなく、スコット・フィッツジェラルドの短編小説をベースにした年代記です。といっても奇譚風の年代記で、ブラピ演じるベンジャミンは死にかけの老人として生を受け、20世紀の激動のなか交遊と冒険を重ねるごとにどんどん若返ってゆきます。12歳の老人に同類の心性を嗅ぎつけて友達になった7歳の女の子が、悲運のバレリーナとして美しい女になる。よぼよぼ状態から逆向きに歳を重ねてみずみずしい美貌を湛えたブラピのベンジャミンが、そこに再び現れる。その束の間の交点が生む、はかない幸福感にゾクゾクします。成長するけど成熟しない男を突き放しては包みこむ、ヒロイン役ケイト・ブランシェットの懐の深い魅力とあいまって。
  • もう1本は、どうみても「巨匠」なんて枠には収まらないクリント・イーストウッド監督の『チェンジリング』(2/20公開)です。愛する坊やが失踪し、数ヶ月たって戻ってくると別の子だった、という1920年代の実話ベースのお話で、それを失点と認めず手柄にしたい警察権力を向こうにまわし、単身で消えた息子を追って追って諦めることを知らないシングルマザー役のアンジェリーナ・ジョリーが、震えがくるほど素晴らしい。茶系の画面に口紅の赤や市電の赤が映えます。不安渦巻くサスペンスのなか、事件の異様さと母の偉容さが、ともどもに胸をかきむしってきます。それにしても、底のない組織の悪も底のない個人の悪も呑みほして、イーストウッドのこの悠然としたオーケストレイション、映画のトータルな響かせ方はすごいというほかありません。
  • 真野ちゃんは10年後の自分を世界的な女優に見立てて「ハリウッドの新作が公開されたようですね」と『よろセン!』で語りかけたけど、10年後の夢の「続き」はさてどんなふうでしょう?

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