身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

『カンフーシェフ』 サモ・ハン&加護亜依

  • 加護ちゃん再帰初仕事を飾った香港映画『カンフーシェフ』は去年の春ごろ、さんざんワイドショーで取りあげられながら、どこも監督が誰かすら教えてくれず、結局、海の物とも山の物ともつかぬ映画と、眉にツバをつけて期待半分に収めておくしかなかった。観てみると、グルメ・悪食なんでもあり、お上品な映画などクソクラエと蹴散らすような、香港流ごった煮コメディの旺盛さがあって楽しかった。料理とアクションを掛け合わせたコメディといえば、香港映画全盛末期の1990年代半ばに、ツイ・ハーク監督、レスリー・チャン主演の『金玉満堂 決戦!炎の料理人』やチャウ・シンチー監督・主演の『食神』といった快作がある。その不肖のお友達として、小さくかたすみにでも『カンフーシェフ』の名を書き留めてあげたい。
  • 監督のイップ・ウィンキンはスタントマンからアクション監督へ、という経歴をもつ。アクション監督あがりの監督にありがちなのだが、筋の運びやドラマ部分の演出が雑でいい加減。けれど、サモ・ハン・キンポーやブルース・リャンといった往年のカンフー・スターが現役ばりばりの雄姿で手抜き無用・ナマ傷必至のフィジカル・アクション*1 に取り組み、それが宿命の中華料理対決へとデタラメに収れんしてゆくさまを観ていると、これでええやんか、という気にもなる。そんななかにあって、われらの加護亜依は初登場シーンこそ堅さが目立ち、吹き替えなのだろう、早口の広東語*2 も違和感まるだし、どうなることかと思ったが、ここで求められていることを短期間でわがものにする、さすがの現場順応力を発揮して、コメディエンヌとしての才覚を画面いっぱいに弾けさせている。
  • 加護亜依の役どころは、レストラン「四海一品」のオーナー・シェフだった父亡きあと、店の灯を守ろうとする二人姉妹の妹イン。活発で負けず嫌い、危険もかえりみず、やられたらやり返すトラブルメーカーでもある。いわくあって村を追われた豪腕料理長ピンイー(サモ・ハン)とナマイキな若造料理人ロン(ヴァネス・ウー)を雇い入れ、TV番組「中華の達人」でレストランの起死回生を目論むも、ヘンな敵がうじゃうじゃ店の回りにやってくる。大型スーパーマーケットでロンと食材を買い出し中にぶち切れて、自ら肉弾となってカラフルな食材もろとも敵に突っこんでゆくコミカルなアクションは拍手喝采ものだ。スタントマンの助けを最小限に留めつつ、加護ちゃんはワイヤーと重力のとりことなり、体を張ってる。スイカを割りすぎて「スイカアレルギー」になったり、メリケン粉まみれになったりして。それでいて悲愴感とはまるで無縁だ。アナーキーで天真爛漫。軽々としてからりと明るい。観るうちに自然と顔がほころんでくる。*3
  • それだけじゃない。ピンイーを師と仰ぎつつ若気にハヤるロンを、食材の扱いは天才的でも女の子の扱いはからきしダメね、といいいたげにインは手玉にとる。やんちゃなイタズラっ気はぼくらが知ってる“亜依ぼん”のままなのに、そんなヘタレなあんたが好きやねん、という婀娜(あだ)っぽさもスクリーンに漂う。それがこの自信過剰男を惹きつけ、たじたじにするふうでもあるのだ。“シャボン”のシーンなんて、観ているこちらもドキッとしてしまう。きっと、ドキッとさせることを、コメディエンヌ・加護亜依は演じながら楽しんでいる。ゴールデンウィークに向けて4月中旬公開予定。シアター・イメージフォーラムで上映されます。ここを映画女優加護亜依の発火点としてじわじわ全国展開できるよう、まずは、渋谷の少し外れのこのミニシアターが連日満員となりますように!

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*1:武術監督は『マトリックス』シリーズで知られるユエン・ウーピンの弟ユエン・チュン・ヤン。

*2:北京語との指摘を受けました。すみません。

*3:加護ちゃんの日記《ビスケットクラブ》によると、撮影初日いきなりアクション・シーンから撮りはじめ、だいたい5分ぶんの仕上がりを6時間かけて撮影した、「まだ役になりきれていない悔しさ」と「今までに味わった事の無い、楽しさと苦しさ」で「本当に自分との戦い」だったという。