身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

2009秋季エッグ研修発表会 女優宣言 10/7

  • エッグ女優宣言の[仙石・吉川・佐保・関根・新井]の回(20:00)に行ってきました。その感想をメモ風に。30分でなにをやるのか、ハンパなもんになんなきゃいいが、と気がかり半分だったけど、楽しかったなぁ。なるほど、研修発表会というにふさわしい、余計なことを何もやらない趣向ですね。池袋シアターグリーンは今夏7月に『猫目倶楽部2』を観て以来。この小劇場は客席の段差が大きいつくりで、良好な視界で舞台空間が迫ってくるから好きです。純白のカーテンが舞台正面の出入り口をふんわり彩るシンプルな空間をスカイグレーの照明がやわらかく照らしています。そこに王侯貴族風の衣装を身にまとった5人の女の子が横並びに現れます。下手から仙石みなみ演じるせりな、佐保明梨演じるひなた、吉川友演じるあまね、新井愛瞳演じるしずく、関根梓演じるちえみ。主役の女優が怪我をして、それぞれに、お前こそ主人公だとしたためられた手紙が来ます。たとえその送り主が怪人であったとしても私はそれに応じよう、とめいめいが語ります。私にはその資格があるからと。
  • その資格であるはずの、女優としての信条やプライドが、ひとりずつ違うのがまず面白い。あまねは「努力」が信条。放課後に片道2時間かけて東京でレッスンを積み、深夜帰宅すると四方に畑の広がる自宅の庭先で発声練習に余念がない、という吉川友のように、あまねもいつか大女優になるために日々の稽古を誰よりも繰り返してきました。だから、自分こそ主人公にふさわしいとあまねは主張します。せりなは「才能」が信条。誰よりも持って生まれた女優の素質に長け、才気に溢れる自分こそ主人公にふさわしい。それがせりなの言い分です。ひなたは「技巧」が信条。「声のトーン」にいかに注意して台詞を発するか、がひなたのこだわりです。しずくの信条が何だったかは忘れてしまいました。しずくは自分こそ主人公にふさわしいとは言ってみるものの、自信のもてない子なんですよね。ちえみは「感情」の豊かさが信条。舞台はナマモノ、女優らしく感情のおもむくままに演じるの、と言いつのるのですが、もっと台詞を大事にして、そんなふうに自由すぎるからあなたにだけは手紙が来ないのよ、ってせりなに反論されちゃいます。ちえみとせりなのいさかいをとりなそうと、「声のトーン」が口癖のひなたが間に入り、結局ひなたが攻められることになるくだりなど笑えます。
  • 実はこの前段は劇中劇で、5人はシアターグリーンという劇場でリハ中だったという設定が、女演出家の出現によってわかってきます。彼女は5人にダメ出しをします。「努力」「才能」「技巧」「感情」、どれもこれも大切だけどひとつだけ秀でていてもダメ、まだ足りない! っていうふうに。劇中劇の役が舞台にのぞむ各々の役と重なりあうんですね。さらにそれが、役を演じるエッグたちに重なったり重ならなかったり、そのつかずはなれずの面白さもあります。そして、5人均等に見せ場がある。『猫目倶楽部2』のお騒がせ娘(その見張り役が森咲樹)もそうだったけれど、吉川友が中心にくると、舞台がパッと華やぎツヤめきます。『暗ポップ』の看護婦役もそうだったけれど、仙石みなみが中心にくると、舞台がほんわか安らぎツヤめきます。『しゅごキャラ ミュージカル』の演出家・金房さんが「アイドルらしからぬクセのない表現力」や「持って生まれた品性と透明感」を褒めちぎった佐保明梨は、むしろ演技的に評価されにくいタイプだと思う。でも、技巧が信条の役なのにへんに技巧的な抑揚強弱をつけない、つまり「クセのない」、フラットだけど歯切れのいい台詞回しや演技(いわば節度の技巧)にわたしはとても好感をもちます。関根梓は演技的に初舞台と思えないほどキラキラ堂々としていた。演技経験のある3人に遜色なかったですよ。新井愛瞳はレッスン着での寝転がり方が微笑を誘います。
  • 女演出家が牛丼を食べに行ってる間に、レッスン着での5人の自主連となるのですが、そこに『オペラ座の怪人』みたくシアターグリーンのファントム=怪人が出現します。怪人はある難題を出して、これをクリアしないとお前たちにここを使わせない、と5人の前に立ちはだかります。この難題が最大の見せ場となる。そこに謎が仕掛けられているとか、物語的な意外性や劇的な秘術があるわけじゃありません。プロの俳優が滑舌や発声練習のためによく使う「外郎売(ういろううり)」の長口上をお前らもマスターしろ! でなきゃ、女優として認めない、というのがお題です。「女優宣言」というならまずちゃんと入り口に立ってみな、というこの単純な趣向は、30分のショートストーリーの最後に安っぽい涙をもちこむよりずっと実があります。5人で力を合わせて、という小さな反則はあるけれど。かなりの労苦を要するこの難題を、とりあえずは噛まずトチらず、よどみなくやり遂げた達成感が5人に演技を超えた笑みをもたらします。それは、あまね、せりな、ひなた、ちえみ、しずくの会心の笑みであるとともに、限られた時間に舞台裏で稽古を重ねてきたエッグたちの会心の笑みでもあります。演じることのこの虚実がわたしたちにも歓びをもたらすのです。まずは最初の一歩を踏みだした女優のタマゴたちに乾杯しようという気になります。ちなみに、外郎売の口上がもっとも耳に心地よかったのは、響きのまろやかさで仙石みなみ、響きの明るさで佐保明梨
    • お目当ての福田花音の回と前田憂佳の回に落選していたから、演出・太田善也ときいてホッとしたりもしたんだけど、いまは行けないのが悔しい。まぁ考えてみれば、ふたりはキャリア的には女優のタマゴでもないよね……と、これもまた酸っぱいレモンの論理です。握手会は普段は遠慮するのですが、今回は待ち時間も短かったので乾杯の気持ちを込めて参加することに。歌って踊って演技もできるビッグ・スターになってね、と最後に吉川友ちゃんに伝えました。腰を低くして手を握ったまま、低い位置から笑みを差し向けるふうにわたしを見送ってくれました。雨が小休止した夜の池袋、やわらかな秋の陽差しのような温感が右手に残りました。

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