身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

タイガーブリージング 5/8 昼一回目(新宿)

  • 一見、脳天気なほど屈託のない人間が追いつめられ、一寸先は奈落という危機に陥り、心がポキンと折れるかにみえて、五里霧中のなかまばゆい曙光と化して立ちはだかる。石川梨華はわたしが知るかぎり、そういう役を演じてきました。憎くてたまらない敵が恋しくてたまらない女の仮の姿とも知らず、牢獄の闇にひとり、身をよじって恋のパッションを帯電する『リボンの騎士』のフランツ王子。来日したテレサ・テンのくちパクタレントという屈辱の役回りを喜々としてこなしながら、なんの巡り合わせか一世一代の「つぐない」を歌うことになる『何日君再来』のB級アイドル美華。リオの裏町のボスでもある新婚ほやほやの夫の逃亡・逮捕を受け、野心家の子分を手なずけながらヤバイ稼業を合法化、したたかに新時代を見据える『オペラ・ド・マランドロ』の可愛い奥様ルー。石川梨華と血脈を通じあうと、いずれの役も逆境にこそ烈々たる光を放っていました。女優・石川梨華には演出家のSっ気を刺激する攻撃誘発性があるのかなあ、それも才能だよね、なんてノンキに思っていたんです。でも、脚本・演出の塩田泰造さんが《ムギムギデイズ》で明かしてくれた稽古初日の感動的なエピソードを読んで、こう思い直しました。石川さんの目から「ぶわーっ!」と放たれるのは、さぁ、あなたが先にここから跳んでみて! わたしも必ずついて行くから、と作家を創作の崖っぷちに手引きするような吸引力、対峙すれば脚本・演出家も無傷ではいられないような魔性の光でもあるのだろうって。

  • 小料理屋を営む三姉妹のマンションに、ある朝、探偵を名乗る二人組が訪ねてきます。お向かいでなにかよからぬことが起こってる、お宅の窓を貸してくれと。ヒッチコックの傑作『裏窓』は、取材中に事故って片脚ギブスの身となった報道カメラマンが退屈しのぎに自室の裏窓を覗くうち、中庭越しのアパートの窓に怪事件を発見して望遠カメラから目が離せなくなる、という物語で、主人公は部屋から一歩も出られないもんだから、向こう側で実際何が起こってるのか窓枠に限られてわからない、ってのがサスペンスをいや増す仕掛けです。『タイガーブリージング』で身動きのとれないのは中年探偵タカナシ(池田稔)で、その理由は後に知れます。タカナシを胡散臭く思いながらも女子高生誘拐・監禁という怪事件にがぜん興味をもつのが三女・鮎美(石川梨華)です。彼女の信奉者であるピザ屋の横浜を斬りこみ隊(斉藤佑介)として、鮎美は快活な素人探偵の役回りを担います。『裏窓』でいえば、グレース・ケリーが演じたヒロインの役どころ。この舞台ではセンターポジションの役として、彼女のキャラクターにもうひとひねり、ふたひねりが加えられています。幼い頃から窓辺の好きだった鮎美にとって、窓は未知の外界を投影してくれるスクリーンなのかも。
    • ここから「唇」「父」「虎」と展開してゆく構想なんですが、窓口でもうタイムリミットとなっちゃいました。ほんとは観劇後の昂ぶりが冷めないうち、楽日直後にでも上げたかったんだけど、連休のしわ寄せがハンパなくって。うーん、無念。

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