身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

アンストッパブル  感想

  • 主演デンゼル・ワシントン×監督トニー・スコットは、新作ができれば何はともあれ劇場に駆けつけたいハリウッドの黄金コンビですが、そのなかでいちばん面白いのは何かって問われれば、『マイ・ボディガード』か『クリムゾン・タイド』か、あるいはいっそ『デジャヴ』か、と迷ってしまいます。迷いを断ち切って、なんたって『アンストッパブル』の一気呵成のアクションの面白さは格別でしょ、と言いたくなる正月第2弾の先鋒。止まった地点が映画の終わりという、禍々しく運動し続けること(しかも敵は徐々に加速する)の緊迫感に一切のドラマを封じこめ、あとはもう、成せば成るというハリウッド的な楽天性でひたすら突っ切る。安定を見失うほど動的でありながら、画面のフレーミングがすっとキマり、枠の外の世界までを感じさせます。暴走する無人列車の赤い異貌が人格と重量感をもって迫ってくる撮影と編集のワザは、営業先行ぎみの3Dのまだまだ追いつくところではありません。
  • この暴走列車を止める役目を担うのがデンゼル・ワシントン扮するベテラン機関士で、彼フランクは終始一貫、現場肌のプロフェッショナルとして振る舞います。フランクに直接相対するのは新米車掌ウィル。ウィルは鉄道にゆかりの家系ゆえ優遇されているらしく、不況のあおりかベテラン勢が早期退職にさらされているのに比べていかにも不当と、実力主義のフランクには映る。フランクとウィルのこの新旧世代の反目が、危機また危機を経て共闘的な師弟関係へと変わってゆくのが人間ドラマの中核をなすのです。加えて列車司令室では、人命優先の女性リーダーに対して被害額を最少限に留めんと画策する鉄道会社上層部が指揮系統に混乱をもたらします。さらに、フランクとウィルはそれぞれ親子関係や夫婦関係に問題を抱えており、それがTVのナマ中継とリンクします。車掌ウィルを演じるクリス・パインは、自分の不注意で車両を余計に連結してしまったことが致命傷を招きかける、という精神的ハンデを負いつつ、斜にかまえた姿勢から未熟さを全人的に機関士にぶつける姿勢へと、鉄道のプロとしての職業意識に目覚めてゆく役。これを受けとめるデンゼルの貫禄もさすがですが、一歩も引かずクールで熱い若さの意気を役に吹きこんだ新星クリスは、いずれ人気と実力を兼備したハリウッド次代の役者になるでしょう。
  • ペンシルヴァニア州の朝の操車場。真新しい光をふくんだ大気。その静寂と清澄を破る小事件。ポイント切り替えのためでしょうか、運転士がしばし席を離れてレールの路上に降り立った隙に、赤い最新鋭貨物列車が発車してしまいます。無人のまま動きだす刹那、車体がぶるっと震動して制御レバーは自動加速に。同じ頃、青い旧型貨物列車がフランクとウィルを乗せて近隣から出発します。「赤」と「青」の正面衝突の危機はいかに回避されるのか? 加速・暴走・凶悪化して原野をのたくる赤い大蛇を、人口密集の市街に入る手前で捕捉できるか? 燃料タンクを高架下に擁した急カーブ、脱線炎上の大惨事を乗り切れるか? ひとつひとつの対処法がアクションの見せ場を形づくってゆくのですが、測線に控えた青い機関車一両を逆走させて赤の最後尾に爆走しながら連結しようという試みは、穀物運搬車からイナゴの大群みたいに麦殻が舞い飛ぶなか、クリス・パインとスタントマンが身を挺したものとなります。『キートンの大列車追跡』のバスター・キートンのように、『駅馬車』のヤキマ・カヌートのように、と喩えたくなる感動的なスタント・アクション。本質の部分ではVFXに頼らない、という姿勢が一貫しています。赤い暴走車の減速を図って、車輪に摩擦熱の火の粉を散らしながらブレーキが焼き切れるまで「青」が耐えるさまは、機関士と車掌の連携による「豪気」が満身創痍の機関車に乗りうつったみたい。「黄色」という名脇役の出現については、これ以上書かずにおきます。今日が初日です。

_____