身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

娘。2011秋 愛BELIEVE(武道館)

  • モーニング娘。さんこそがアイドルの頂点だと思います。アイドル越えてます」と和田彩花がブログに書きました。普段はアホっぽいけど、あやちょはごくたまーにシンプルかつすごいことを言う子です。その他、ハロー周りの先輩・後輩が観たばかりの武道館のモーニング娘。コンサート(29日と30日ファイナル)について熱いブログを一斉更新していて、高橋愛ちゃん、どんだけ愛され上手やねん、と思うと同時に、この卒業ライブの「区切り」の意味をそれぞれが噛みしめてるんだな、としばし感懐にひたりました。新進振付師の竹中夏海さんがこんなふうに書いてくれています。夏の汐博でのアップアップガールズ「黒船」公演が超楽しく、その外部プロデューサーとして覚えた名前です。
     なんかもうね。エンタテイメントの全てがそこにありました。
     素晴らしかった。圧倒、以外に言葉がみつからないです。愛ち
     ゃん、やっぱりおそろしい人。愛ちゃんの卒業はモーニング娘。
     にとってはもちろん、ハロープロジェクト全体の、そしてアイ
     ドル界全体にとっての、ひとつの区切りなのだと思いました。
     高橋愛ちゃんという女の子がアイドルという道を選んで、そこ
     で10年間頑張って、そして飛び立って行く、その愛ちゃんが耕
     してくれた道をこれから全アイドル達は歩ませてもらうという
     だけですごい事。そう言わせてしまうだけのパフォーマンスで
     した。表情も身のこなしも何もかも凄すぎて瞬きができないん
     です。
  • アイドル界はいま、仕掛けと接客の勝った「虚」ばかりが踊り呆けているみたい。次の「冬の時代」の廃虚が、すぐそこに透けてみえるような「虚栄の市」を感じます。アイドル界もわたしの仕事もしょせん虚業とアイロニカルに構えてしまえばそれまでですが、虚ろなきらめきのなか、こうも「実」が見えなくなってしまうと。もちろんハロプロにも娘。にも「虚」はあって、わたしもそれを虚実の境で楽しんできたのです。アイドル界に育てられた高橋愛は、娘。黄金期をつくった4期までの先輩に比べ、5期は人気低落の元凶みたく言われながら、与えられた空間で、踊ること、歌うこと、演じること、つまりショウ・パフォーマンスの追求という「実」をとろうとしたんだと思います。自分をアイドルとは思っていない、と愛ちゃんはこの前ラジオで語っていました。といって、自分をアーティストと持ち上げたりもしない。アイドルもアーティストも「虚」の部分を多く含んでいることにはなんら変わりがありません。それよりも、歌手、ダンサー、女優と一芸・二芸・三拍子そろったアイドル界の(ときにはアイドルという枠を越えて)特異点であること。「愛ちゃんは自分のことよりみんなのことを考えてこの10年間がんばってた」という盟友・新垣里沙のセレモニーの言にならえば、多分にいびつでせせこましいアイドル・ビジネスのルールや土壌に身を置きながら、歌やダンスの素養がないアイドル・グループをライヴ・パフォーマンスのプロ集団に自らお手本になって引き上げること。
  • 武道館1曲目の「Mr.Moonlight 愛のビッグバンド」を観れば、伊達男役の高橋愛に新パートナーの小娘役・鞘師里保を得て、台詞パートからメロディへの移行が、ウブなまま洗練された動作や表情とともに流れるような連動性を帯び、こちらを早くも涙ぐませてしまいます。5期のデビュー曲でもあるミスムンは高橋愛をセンターにした波及効果で、ひとつの完成形として生動していました。7曲目の「シルバーの腕時計」では、田中れいなとデュエットする鞘師里保の歌が春より格段に進化していた。のみならず、春公演でわたしたちを驚かせた「MoonLight night 月夜の晩だよ」の烈しさとはおもむきの違う傷心の「切なクール」なダンスが素晴らしく、そこに新垣里沙が幽鬼のようなかっこよさで現れて、励ましのラップ・パートを歌うのです。続く「この愛をかさねて」はハモリも綺麗な高橋愛新垣里沙のデュエット曲で、愛ガキの長く深い関係性を重ねずにはいられない穏やかなラブ・ソング。愛ちゃんはここでもう感極まっていたけれど、これが初めて5期のために書かれた「好きな先輩」へと当時の映像付きで遡行的に繋がっていけば、その歳月をともに生きた観客席の想いも溢れて来ずにはいられません。一方に、緑のレーザービームと蒼く沈んだステージ空間が似合うソリッドな「SONGS」があり、その対極に、真フカンの円陣にはじまるキラキラのお祭り空間「グルグルJUNP」がある。その往還が娘。コンサートの本領ですね。
  • おそらく、黄金期のメンバーがみんな卒業あるいは脱退となり、不測の事故みたいにリーダーの地位が舞いこんできた高橋愛にとって、「ライヴ・パフォーマンスのモーニング娘。」という信用に応えることこそが不安を鎮める拠り所だったはずです。美勇伝とのジョイント・ツアーというある意味「屈辱」といえる背水の陣からはじまって、マスコミへの露出も恒例だったドーム・コンも影をひそめた。最後の砦の「信用」を一度でも失えば、娘。の失墜は目に見えていました。そんななか、エース兼リーダーとして、パフォーマンスにかけては歴代娘。コンサートの頂点を有無を言わせず極めてみせたのです。ミニ・コントや定型MCといった幼い部分、無駄な要素をどんどん殺いで、歌の力、ダンスの力、道重さゆみを筆頭に腕を上げたトーク力が縒りあわさって、コンサート全体がうねりだすよう。なにより昨年暮れ、JCBホールでの『ライバル サバイバル』に圧倒されたことがわたしには思い出されます。
  • 「愛ちゃんがリーダーだからいまの娘。がある」と、いみじくも道重さゆみはセレモニーで嗚咽とともに語りました。ミュージカルでもストレート・プレイでも、高橋愛は自分の核に役を引き寄せるのではなく、役の核に自分が吸い寄せられるタイプの女優さんといえます。ステージ裏でもそんなふうに、愛ちゃんは分け隔てなく他人の核心に入りこんでいっしょに涙を流してあげるのでしょう。後輩にとっては言葉で諭されるより、その情けに触れることが一生ものなのでしょう。泣かない子・鞘師里保が人見知りして集団に馴染めないころ、買い物に出かけて高橋さんが手を繋いでくれた、と泣きじゃくるセレモニー時の姿がとても印象的でした。「高橋さんのおバカなところもたくさん見れたし、それ以上にプロとしてのパフォーマンスをたくさん見れて、娘。に入れて幸せでした」と鞘師里保ちゃんは語りかけました。モーニング娘。の、そして愛ちゃんのスピリットがこんなふうに受け継がれていくんだな、と落涙せずにはいられなかった。たった2日間だけど、10期の工藤遙ちゃんもこの現場に立ち会えてよかったね、いっしょに「友」を歌えてよかったね、とつくづく感じ入りました。
  • 高橋愛は帝劇の『ダンス・オブ・ヴァンパイア』出演の後、来春には「ブロードウェイでも通用する実力」を目指して、アメリカ留学をするのだといいます。「4カ月程度の短期留学を数年にわたって繰り返す」のだとも。愛ちゃんは、いきなりの帝劇というチャンスにも自分を見失わないのねぇ。目指す道は果てしない。けれど、目標はくっきりと見えています。春先だったか、高橋愛はただの「振り」ではなく、振りの向こうの表現世界を鞘師里保に伝授しようとしていました。ソング&ダンスの要諦は単なる自己表現じゃなく、自分の殻を突きやぶり、「休息を知らないバネ」のような生命体として自己を超えて世界をあまねく表現することでしょう。愛ちゃんにはそれができる。おそらく、世間的な評価はまだ「アイドルにしては……」という程度です。活き活きと絶えざる推進力をもったエンタティナー、三拍子揃ったミュージカル女優の高みを舞台上で見せ切り、そんな世間の評価を有無を言わせずねじ伏せる日の到来を、いまから心待ちにしています。

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