身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

娘。コン 2012春 2/26夜(横須賀)

  • 積年の不規則生活にもかかわらず大病をせずにここまできたものの、持病の飽和点を薬ではごまかしきれず、人生初の入院・手術を2月に経験しました。下半身麻酔だったため、薬を使って眠ります? という麻酔医の問いかけを断って、組織の切片が血しぶきを上げながら手作業で細かく削り取られてゆくのを、内視鏡のモニターを通して自分のことじゃないように眺めていた。寒さの染みる冬でした。今日はもうお彼岸です。手術台の2時間ほども、はるか彼岸の出来事のよう。退院後、厄介な後遺症がまだ残るなか、はじめて出かけたのが横須賀でした。モーニング娘。コンサートツアー2012春 ウルトラスマート。よこすか芸術劇場に出向くのは、高橋愛が昼の公演で足を怪我しつつも夜の公演途中に病院から舞い戻ってきた――その火急の穴埋め、戻れるか戻れないかもわからない宙づり状態、足を引きづり戻った後の対応、すべてのハプニングをメンバー一丸でプラスに転じてみせた5年前の伝説の娘。コン以来でした。今回もオペラハウス仕様に多層化したバルコニー席から。
  • 今回のセットリストのお気に入りは、まず中盤の「元気ピカッピカッ!」あたりで、鮮度や明度が高く濁りのない声たちの色彩空間に自分がまた帰って来られた、という不思議な感慨が押し寄せてきました。9期と10期が刺激しあう切磋琢磨が感じられて心地良かった。すると、次の曲は一転、毛色を変えて「秋麗」です。ラテン風味のパーカッションが涼しげに間奏を彩ったあのナインスマイル秋コンの佳曲を、さらに大人っぽくバージョンアップして新垣里沙がソロで歌います。バックには、弧の動きに特徴がある緩急のダンサー・9期の鞘師里保と、直線の動きに特徴がある剛毅のダンサー・10期の石田亜佑美。その目に見えない火花を、ガキさんの歌がやさしく包みこんでゆくようでした。続く現娘。大人組による「シャニムニパラダイス」もさすが先輩という隙のなさで、そこに自在な開放感がありました。すっかり恒例の6期MCは、制服をテーマに田中れいなの中学時代の校則破り話で盛り上げて、道重さゆみの「私たち中学校で知りあってたら仲良くなってないかもね、今は仲良しのふたりが歌います」でストーンと落とす。アドリブの効くふたりの呼吸は次の「GOOD BY 夏男」のダンスの呼吸にも引き継がれ、それでいて歌はまるでれいなのソロ曲のように聞こえちゃう。それもまた6期らしくて、いとをかし。
  • 9期vs10期モノマネ対決のMCを挟んだその後のメドレーからアンコール前ラストに至る流れは、今ツアーのハイライトですね。ガキさんラップとディストーションギターの競演が何度聴いてもかっこいい「HOW DO YOU LIKE JAPAN?」から出発し、新垣里沙ゆかりの『4th いきまっしょい』以降のアルバム曲やカップリング曲から、好日性の強い曲たちを並べて勢いよく駆けぬけ、ふっとテンポを落として「歩いてる」で締めくくられます。メドレー途中ではやたら9期の譜久村聖の肉感性が気になって、そういえば去年の娘。秋コンではコケットリー(可愛さを基本にした媚態)表現においてさゆみんが一枚も二枚も上手だった「好きだな君が」も、今回はふくちゃんの色っぽさがぐっと肉薄してたよな、なんてそぞろな気も起きたけれど、やっぱり今の娘。はガキさんを芯にして発光するグループなんだなぁって胸のあたりが熱くなりました。今ツアーの「歩いてる」には、新垣里沙の歩みがあり、ソロがあり、それを迎え、送り、歩みに道をつける娘。の澄み切ったユニゾンがあって感動的です。
  • 3月10日の武道館ドリ娘。コンでは、ゲスト出演の後藤真希、いや、ごっちんがやっとプッチモニの「完成形」をお見せできる、と明言してくれたように、昔の仲間が寄り集まって懐かしいでしょ、泣けるでしょ、といったOGイベントの安易さとは次元の違うパフォーマンスが目の前を明滅していった。記憶の切片が層を成して行き過ぎては、今この瞬間へとしぶきを上げて折り重なってゆくような。これこそが「時の厚み」を積み上げてきた娘。ライブのスピリット、現在の娘。へと継承されたスピリットだな、と改めて思い知らされました。ですが、娘。の栄光は、世間的には過去のものとして直接の立役者であるドリ娘。に集中してしまいがち。そんな栄光の輝かしさを「私のなかのモーニング娘。」として記憶しながら、ファンの目に届かない栄光の爪痕の苦さ、悔しさをも胸におさめ、新垣里沙が今のモーニング娘。を先導し、歩いてる……。
  • アンコール明けの娘。の新曲、新垣里沙最後のシングルともなる「恋愛ハンター」は、失恋しても恋に舞い上がっても自然の摂理にシンクロして前向きに生きるつんく♂風味の女子たちのコンパッションが、宇宙的な電子サウンドに埋めこまれている、とでも言えばいいんでしょうか。ダンスの動きは真っ先にインベーダーゲームを連想させるけど、アンドロイドというかロボット&モンスターというか、もうちょっと無機物と有機生命体の中間を狙った匂いがします。とても好き! 八角形を生かしたスペース・コロニアル風のステージ空間ともよくマッチしていました。フットライトに近い足元の段差に、細長いオーロラビジョンがあしらわれていて、オープニングでは『スター・ウォーズ』みたいに星が流れたりした。これ、まず田中れいな新垣里沙ありき、それから新メンバーの子供たちあってこその曲ですよね。「宇宙家族」という言葉が浮かびます。。鞘師里保ちゃんがスカパーの新番組のインタビューで、先輩に話せないことは同期に相談できるし、同期がわからないことは経験のある先輩に聞ける、モーニング娘。はそんな家族みたいな存在です、と語っていました。「家族みたい」な関係性も、ディスコミュニケーションの危機もふくめて姿を変えながら受け継がれているんでしょう。
  • 娘。コンサートには、一体感を極限まで高めながら節目節目の消失点へと収斂してゆく、その時代の万感を担ったライブならではのキラーチューンが代々あります。「ダディドゥデドダディ!」「I WISH」「ラヴ&ピース!HEROがやって来たっ。」「青空がいつまでも続くような未来であれ!」。そして今ツアーのオーラス曲でもある「涙ッチ」。モーニング娘。うしのアイコンタクトやスキンシップが寄せては返す「涙ッチ」パフォーマンスの生き物みたいな生動感は素晴らしい。客席の凱旋コールに迎えられ、最後にひとり登場した新垣里沙は満面の笑みの涙顔でした。5年前の夜の横須賀コンで、高橋愛のハプニングにすっかり主役の座を奪われた新垣里沙が、最後満面の笑みで客席に投げかけた名台詞を今こそ投げ返したいと思います。ガキさん、「目に見えるものも、目に見えないものも、ちゃんと受け取っています」。

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