身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

ハロプロ研修生 発表会2012春/夜

  • 旧エッグ時代から研修生の公演は欠かさず観てきたが、今回は整理番号順というのと当日の雨風がわたしの体調と引きあわなかった。腰が重かった。実際、手持ちの番号のポジションを目指そうとしても手狭な非常階段の途中がパニック寸前で、進むことも退くこともできない。あれには参った。運営サイドは1階の最後尾にひとり居るだけで、あとは4階入り口前にたむろするばかり。なんの役にも立っていない。せめて200番くらいごとに区切り、間隔を開けておのおの列前に係員を配置するべきだろう。と、普段は書かない仕切りの悪さへの小言から入ってしまった。こんなところに書いても意味ないという徒労感から、自己嫌悪に陥りそう。切り替えよう。『3月の生タマゴShow!』と銘打った日本橋三井ホールの公演自体は、心底楽しかった。新人公演は前後左右のフォーメーション移動のみならず、2列目、3列目の後輩や新顔がセンターポジションをおびやかすいわば「上下動」、大人の仕掛けを超えて内発する舞台上のダイナミズムが年をまたいで継続してみるほどよくわかり、実に面白い。しかも、稽古を積んだウチらのステージは毎日のルーティーンワークなんかじゃない、次いつできるかもわかんないのよ! という差し迫った爆発力が生歌や生のダンスに顕現している。スマイレージ・メンバー全員と観たらしい福田花音ちゃんがツブろぐ時代を思わせる熱さで、ずっと「ちっちゃい子組」のくくりにいた私なのに、いまや私より年下ばかり、顔なじみはほとんどいなくなっちゃったけどすごい勢いがある、あの場は「コンサート」というより、それぞれ自分の練習の成果を出す「発表会」、自分たちの見せ場なんです、みたいなことをブログに書いている。ほんとにそんな感じだね、と肯きたくなる。
  • 今回の公演は、スーパーエース宮本佳林の不動のワントップ体制、というのとも少しおもむきを異にしていた。金子りえ高木紗友希というリーダー格のコンビが支柱になって、そのトップ下に控えたかりんちゃんが状況を見わたしながら、ここぞというときに前に出てくるイメージ。宮本佳林は期間限定ブログに「120パーセントの20パーセントを冷静な自分にすること」と「全力パフォーマンス」を今回の目標に掲げていた。自分のポジションをよくわかってる。そういう聡明さも彼女の魅力のひとつだ。その強力な「三本の矢」に後列から割ってはいる後輩組として、今公演のMVP級のお手柄は文句なく小数賀芙由香大塚愛菜だろう。ふーちゃんことコスガフユカは、スマイレージ加入まもなく離脱して療養生活に入り、研修生としての再始動も日が浅い休み明け、もともと今回はあまり無理をさせない様子見ではなかったか。ところが、インフルエンザで直前に出られなくなった小田さくらの代役として、「ぁまのじゃく」と「夢見る15歳」に急きょ抜擢されることになる。できる? と先生に聞かれ、去年の夏の終わりにいっぱい練習しました、できます! と、おそらく、ふーちゃん自らが応えたのではないだろうか。
  • そんなことを想像しながらドキドキして観た「ぁまのじゃく」は、宮本佳林前田憂佳パート、大塚愛菜和田彩花パート、高木紗友希福田花音パート、そして小数賀芙由香小川紗季パート、という願ってもないユニットに――。宮本佳林によるサビの「とおく離ーれたり♪」が、あまのじゃく少女の純情の彼方へと突きぬけると、伸びやかにユニゾンへと連なって、その声の響きが空間的な拡がりとして胸ぐらを甘ーく充たしてゆく。今公演の頂点となるパフォーマンスだった。小数賀芙由香は痩せぎすだった体に少し健やかな肉がついた。タッパがあるからスタイルのよさが際だつ。しかも、スマイレージ・オーディションの3次合宿審査で、あまりのできなさに悔し泣きするより、できない自分が最後に小さな成果を上げられたことに嬉し泣きした姿勢の良さ、というか彼女の人柄そのものが、「失敗しても笑顔で吹っ飛ばすくらいの」溌剌ダンスに滲んでいた。歌にも成長の跡があり、線の細さはあるもののスター性を感じる。スマイレージに復帰したら、和田彩花福田花音田村芽実竹内朱莉――刺激的な無政府状態のセンターに割りこんでくる存在になるのでは? 期待している。
  • 大塚愛菜は歌のスキルをぐんぐん伸ばしてる。しかも、歌声にさらっと唇や頬のあたりをかすめてくるような色気がある。2人で歌った「通学ベクトル」や3人で歌った「The 美学」だけじゃなく、全員の曲でも大塚ちゃんの声を探してしまう。「さゆき先輩は細かいリズムの取り方を教えてくださいます」「りえ先輩は……」「かりん先輩は……」と敬語がリフレインする期間限定ブログの言い回しにも惹かれる。モーニング娘。9期の最終で落ちちゃったのは、ちょっともったいなかった気が、今になってする。あの頃は、大塚ちゃんも幼すぎた。もうすぐ14歳、ぐーんと大人っぽくなった。譜久村聖の大人っぽさとはまた違うシャープな翳りがある。最近、お父さんにベースギターを買ってもらったとMCで話していたが、入っていれば歌唱要員として娘。のベースギター的な役目を果たせたのではないだろうか。
  • 今回唯一のソロ曲、高木紗友希の「原色GAL 派手にいくべ!」を観ていると、この子はほんとに表現力があるな、って感心する。舞台でつちかった表現力。歌い方も踊り方もすごく丁寧で、ごっちんが歌った楽曲のイメージをワンフレーズワンフレーズ自分なりに咀嚼して表現できている。りっちゃんこと金子りえは、12曲中10曲に出演という八面六臂の活躍だった。印象に残ったのは、「ピョコピョコウルトラ」の曲中にハマちゃんこと浜浦彩乃とアイコンタクトしてすーっと頭を撫でてあげたり、ちっちゃい子に面倒見のいいお母さん役って感じがパフォーマンスにも現れていたこと。微笑ましかった。宮本佳林は、たとえ脇に回っても、やはり別格の放射力がある。わたしは上手の前寄りにいたのだが、「本気ボンバー!!」だったろうか、上手の真正面をきりっと見据え、目標の「リズムとニュアンスの両立」を具現したようなダンスをすごい気合いで繰り出してくる。あのまぶしさは、正視を続ければ眼をやられるたぐいのものだ。
  • こうしてみると、今の研修生には「後塵を拝した者のリベンジ」というドラマ性があるよなぁ、って思う。ゼロから再スタートしてスマイレージ復帰を虎視眈々と狙う小数賀芙由香がいる。鞘師里保ら娘。9期の影を追うのか振りはらうのか、大塚愛菜がいる。加入当初はヘタレなエッグ4期生3姉妹として横並びだったのに、あれよあれよと譜久村聖が娘。に、竹内朱莉スマイレージに加入、ひとり立ちおくれちゃった金子りえがいる。そして、エッグの大本命と目され、王道の好位から勢いよく抜けだしたのに、工藤遥というちっこいポニー風奔馬にゴール前の出し抜けを喰らった宮本佳林がいる。今公演のリハ期間中、1日ごとに与えられた「努力賞」を4日連続で受賞し、いつにないやる気をみせながら、無念のインフルエンザ・リタイアとなった田辺奈菜美の、次なる反攻もきっとあるだろう。ステージ経験も初めてに近いはずなのに、「通学ベクトル」のデュエットなど大抜擢のチャンスをインフル禍でみすみす逃した小田さくらも。スマイレージ・オーディション落選組のなかで、彼女の面白トークは群を抜いていた。みんなみんな、またいつかの「反撃」を祈っています。

_____