身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

ハロプロ研修生 9月の生タマゴShow!

  • 「研修生」と名前を変えての発表会も3度目。今回はまた格別の驚きに満ちていました。エッグ時代の充実とは一味違って、勢いに対応の素早さを感じます。日頃の稽古や直前リハから受けた変化の芽を、見えやすい現在の完成系をさておいて発表会の歌割に思いっきり反映させてゆくような。つんくPは「今まではどっちかというと足をひっぱてったタイプの人間が、ここにきて急に動きがシャープになってきましたねぇ」とブログで語っています。「上手いメンバーには当然ながら及ばない」けど、その底上げによって「今までとは違った風景が飛び込んでくる」はずと。エッグ時代からそんな「流動性」こそが毎回の公演の魅力だったんですが、見せ方に決定的な違いを感じます。
  • 前田憂佳体制とか佐保明梨体制とか、公演のカオとなるメンバーが1人や2人いて、それを囲んで実力派が数人いて、周縁が渦をなして中心付近をうかがうのがエッグ時代。トータルなセンターポジションは、台風の目みたいに時代時代で固定されていた感があります。同心円のコスモスという型があるから、下剋上の嵐のなかでも一定のライブの完成度が保証されたといえるでしょうか。その公演スタイルを研修生の発表会と位置づけなおすことで、エッグ時代からの「上手いメンバー」、金のとれる貌をステージ上でもあえてサポート役にまわし、急成長組をどしどしセンター付近に送りこんでゆく。水底から光のゆらめきを見上げていた者たちの、孵化と浮上の未完のドラマが毎回のごとく前景にせりだし、泡立つような「違った風景」のなかにわたしたちはそれを目の当たりにするのです。

浜浦彩乃(12)

  • いつになくスクリーンがバックにつき、横移動するでかいカメラも入った代々木・山野ホールでの今回、急成長組の1番手は彼女でしょう。宮本佳林高木紗友希大塚愛菜という実力派を揃えた「Kiss me 愛してる」では、同期の田口夏実と同じく「上手いメンバーには当然ながら及ばない」んですが、いきなりの鈴木愛理ポジション。ゲームの無茶ブリでもみせたセクシーポーズとミルクチョコレート・ヴォイスを駆動し、上手いメンバーたちへの食らいつき方がなんとも清々しかった。バックに控えた中島早貴ポジションの宮本佳林がぐんと競りあがってきたり、端っこでひねりの効いたターンをメリハリよくキメたりするので、求心力というより遠心力を感じさせる凸凹アンサンブル。といって、ばらばらなんじゃない。中心が自由に移動する、アメーバみたいな一丸のムーブメントに魅せられました。今回のベスト・パフォーマンスに挙げたいくらい。
  • 「蝉」も忘れられません。夏の名残のように、いまだ耳元で鳴り響いています。大気を突きぬける声の持ち主・大塚愛菜と、声が温かい厚みをもって迫ってくる小田さくら℃-ute曲「Midnight Temptasion」しかり、大ラスの「超HAPPY SONG」しかり、まるでツインボーカルみたいに要所要所を聴かせるふたりに、はまちゃんの歌はかなうべくもないんだけど、耳を澄ますと初期Berryzのおぼつかなげな透明さの記憶と溶けあい、「蝉」が浜浦彩乃の霊感とともにいまここに新たな脱皮をはじめたような気がしてきます。まるで出来立ての白玉にたっぷりと黒蜜がかかってるみたい――そんな鮮度を感じさせる彼女の顔立ちと甘やかな声があればこその、今回の「蝉」なんだと思います。浜浦・大塚・小田、3人が合流して「凛冽(りんれつ)」の一語がこぼれ落ちたような。
  • SATOYAMAの娘。11期オーデの映像断片にはまちゃんの歌う姿がちらっと映ったことや、舞台『キャッツ・アイ』の菅谷梨沙子の幼少期として映像参加する情報、YouTubeのグッズ告知などから事前の期待値が跳ねて、それに今回の大躍進が火をつけちゃったということなのでしょう。早くも歓声の大きさでは、人気・実力トップのかりんちゃんに並ぶものがありました。彼女の急成長の片鱗は、前回『6月のタマゴShow!』の「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」や「元気ピカッピカッ!」に、最強! と叫びたくなるサムシングとしてすでにうかがえたことを一応申し述べておきたいと思います。浜浦彩乃の特質を一言でいえば「あいくるしさ」に尽きます。見ぐるしい、暑くるしい、狭っくるしい。すべて否定的言辞だけど、あいくるしい場合にだけひとは「くるしさ」を全面的に受け入れるんですね。みんながきみにあいくるしんでるよ、大佐!

植村あかり(13)

  • 「いくつ?」と聞かれ「13」と応えて会場がざわざわしました。「ちょっともう丸の内のOLさんみたい」と司会のまことさんは上手く返したけれど、植村あーりーもシャ乱Qも大阪生まれなら、ここはやっぱり「中之島のOLさんみたい」と言ってほしいところでした。東京じゃ通じないか。急成長組の2番手はこの子。ハロプロ系の関西女子は、現メンの中西香菜光井愛佳が典型ですが、裏路地の惣菜屋の若女将みたいなちょっとあけすけで愛嬌のある容貌が多く、18まで大阪で育ったわたしなんか昔どこかで会ったようなデジャヴによく襲われます。植村あかりは大陸的な大がらのクールビューティで、いったい大阪のどこらへんで育ったん? と問いかけたくなる。それでいて、先輩メンバーの金子りえ高木紗友希に駆け足で抱きついてくるような人懐っこさも持ちあわせてるようで。まことさんの「今日は雨やなぁ」に即興で応じた「そやなぁ、でも来てくれてうれしなぁ」の柔和な大阪弁と大人びた美貌は、3月の初見せのときから目を引きました。でも、きもくも怖くもあるあの視線、この視線をステージ上で受けとめきれずに、踊りながら目が宙をさまよい、振りまでが自信なさげで、なんで、うち、ここに居るん? って感じが初々しくもあり、痛ましくもあって。正視するのが申し訳ない気分にもなったものです。
  • 6月の発表会でもあまりその印象は変わらなかったのに、ひと夏越えて名牝開花。正直、浜浦彩乃以上に天に与えられし姿態の華やかさ、瑞々しさの占める割合が技量よりも大きく、まだほとんど未知数だけど、「cha cha SING」のあけっぴろげな腰振りダンスを手始めに、粘りつくような視線の束を歌って踊って魅せることの快感で跳ねかえすステージ度胸がついたことは伸びゆくための大成果といえます。つんくPの「ここにきて急に動きがシャープになってきましたねぇ」は、まっさきにあーりーに宛てた言葉ではないかと思います。℃-uteの初期曲「EVERYDAY YEAH! 片想い」は、当時フィーチャーされた萩原舞ポジションの室田瑞希を先頭に、岡村里星山岸理子野村みな美、そして植村あかりと新人底上げ組を勢揃いさせた今発表会の象徴的なナンバーでした。そこであーりーは、いまの自分と同い年くらいだったまいみー=矢島舞美のポジションをこなしていました。心楽しさが汗になって肌を光らせるあの白いカモシカのダンスとはまた異なる、芦毛サラブレッドの気品あるあでやかさで。長いたてがみだけが黒光して揺れているようでした。神社のお散歩に同行したはまちゃんやふーちゃん(小数賀芙由香)をびっくりさせたように、あーりーが寄り添ってお地蔵さんのひたいをひと舐めすれば、そりゃ、ひっそり立ち並ぶ地蔵群のあまたの風車たちも呼応して、無風のまま一斉にからからと回りだすくらいのことは起こるでしょう。

宮本佳林(13)、田辺奈菜美(12)

  • 「EVERYDAY YEAH! 片想い」では、おかむーんこと岡村里星のちょっとブロークンな福々しさも印象に残りました。今回の発表会は、どういうわけかBerryz工房℃-uteの新旧曲に印象的なパフォーマンスが集中していました。会場を最高潮に導いたラス前曲Berryzの「一丁目ロック」も楽しかった。センターの夏焼雅ポジションから宮本佳林高木紗友希吉橋くるみ小川麗奈(おでこを出してはっとするほど美女化していた)、さらにははまちゃん、ふーちゃん、さくらを率い、歌・ダンス・アオリにさすがの貫録をみせてくれました。あと異色なところでは、かりんちゃんが上手ポジの花音パートで難所をあてがわれたスマイレージの「がんばらなくてもええねんで!!」も。ゆうかりんパートの大塚愛菜がいて、さきちーパートの室田瑞希がいて、なによりこの曲では、だーわーパートの田辺奈菜美が持ち前のたっぱとコケティッシュな味わいを生かして歌の世界観にハマっていました。ステッキワークが似合う柄の大きなコメディエンヌ。このボードヴィル感覚の路線にかぎっては、いま研修生で田辺奈菜美の右に出る者はいません。
  • さて、この9月の発表会がおそらく間近に迫ったモーニング娘。11期「スッピン歌姫」オーデションの発表とどんなふうに呼応するのか、それとも無風のままなにも起こらないのか。残暑の秋、子供時代の夏を惜しむ「蝉」とともに、そぞろに待つとしますか。

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