身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

モーニング娘。コン 2012秋(中野)

  • 鞘師里保石田亜佑美が自分のブログで近いうちに披露するデュエット曲のリハをしてきた、ってニュアンスのことを嬉々として書いていた。秋のコンサートツアー『娘。カラフルキャラクター』の日替わり曲の枠だな! 俄然、中野サンプラザに駆けつけたくなった。とはいえ、連休明けいちばんの〆切仕事を抱えている。ライブ三昧とはいかない。ブログの思わせぶりな書き方から中野1日めはないだろう。といって、2日め夜まで引きのばすのはちとあざとすぎる、と連休ラスト10月8日 月曜の昼の回に決め打ちしてチケットを入手する。4分の1の確率。これが当たった。ひし形を重ねたようなシンメのステージの左右に分かれた間奏ダンス・バトル。石田亜佑美のダンスが直線的で怒涛のような瀑布型なら、鞘師里保は曲折と緩急のある渓流型。「クレイジー・アバウト・ユー」といえば、高橋愛の加わった2期ミニモニ。の2003年の変身ぶりや、福田花音竹内朱莉宮本佳林新ミニモニ。トリオによる2011年正月ハロコンと、記念碑的なパフォーマンスを生んでいるが、ダンスの見せ場をフィーチャーすべくアレンジされた今回のバージョンは、リズミックな奔流に呑まれて景色が経めぐるような異質の楽しさだった。
  • 3週間前の座間では田中れいなのソロ「抱いてよ! PLEASE GO ON」初お披露目の回に立ち会えた。大好きな後藤さんの歌を咀嚼して、れいな特有のクールネスに濾過してみせたような気持ちよさだった。『G-Emotion2』での元祖・後藤真希版DPGOは、歌の「表現力」なんて言い方では言葉が追いつけないほど、おのが胸の灼熱をダイレクトに客席へと輻射するような力があったよな。15,6歳のときに、もう人生の半分が過ぎてしまった気がすると本人が冗談とも本気ともつかない言葉を吐いたけど、いま思えばDPGOはシンガーとして生き急ぐごっちんの心臓の音そのものだった……。そんな想念を経めぐらせながら、どこか清涼感のある田中れいなのソング&ダンスに酔った。後藤真希へのリスペクトを感じた。中野ラストの夜の回では歌のさなか、「れいなに後藤さんがすーっと入ってきた」らしい。誇り高い継承者としてDPGOを新たな位相へと進展させてほしい。ところで、高橋愛が自身のブログで双子みたいにそっくりな妹の顔を初公開した。愛ちゃんいわく「絵うまいし(天才的に!)、歌ちょーうまい」とのこと。難航しているれいなバンドのボーカルの相方は、もしかして……なんて思ってしまった。
  • 日替わり曲で一気に昂ぶって、その直後がいまやハロー名物、心臓破りのメドレーだ。今回は、ミックスにひと手間かけた工夫が凝らされ、いつも以上に素晴らしかった。「気まぐれプリンセス」や「SEXY BOY」の印象的なフレーズの反復に、体がおのずと拍節を刻んだ。続く「リゾナントブルー」は、数年前の一糸乱れぬというわけにはいかないが、いまの娘。がプラチナ期とつながっているという感覚が喜ばしかった。これと隣接させることで次の「恋愛ハンター」の感興がぐーんと増した気がする。来春の娘。ツアーでは、11期の小田さくらが娘。楽曲中でベストに挙げた「SONGS」に11人娘。でチャンレンジしてほしい。
  • 「リゾナントブルー」でうれしさを体現するように亀井パートを踊る、というより踏み鳴らしていた譜久村聖。「恋愛ハンター」に続く「ドッカーン カプリッチオ」というお祭り曲では、淫らすれすれの色っぽさが炸裂していた。光井愛佳もブログで同じところに注目していて、ニヤッとさせられた。腰を沈め、揺らし、くねらせて「わたしセクシーィィィィ♪」と狂おしく伸び上がる。ねっとりとまといつくギリのところで突き放す。魅せるダンスを覚えてきたね、ふくちゃん。しかも、白い柔肌を汗まみれに上気させたまま、ってのがたまんない。アンコール前ラスト曲、佐藤優樹から道重さゆみへとドキドキのソロではじまる「ゼロから始まる青春」は、メンバーひとりひとりの声がよく聞こえた。鼻にツーンと来る感じの、切なさと輝きがあった。10人の間奏ダンスがワルツ風になるのもいい。どこへ行くかはわからずとも、「ゼロ地点から」という駆動力だけは内燃している、気負いと寄る辺なさ。なんだか懐かしいような、歳を重ねてもちっとも変わらないような。
  • 日替わり曲にはじまって「ゼロから始まる青春」に至るライブのうねりが、今ツアーの長く持続的なハイライトだと思った。その前段では、「One・Two・Three」「The 摩天楼ショー」「What's Up? 愛はどうなのよ」の3連コンボから、曲終わりで間髪おかず、そのまま曲を引き継ぐようにタイトル映像に突入するオープニングがかっこよかった。あとは、Q期の「アイサレタイノニ…」に目を見張った。女の子風のデニムの短パンと、女っぽい黒の網タイツ風ニーハイストッキング。それをガーターベルトでつなぐというショウガール・スタイルで、鞘師里保がセクシー・ダンスをクールにリードする。歌もダンスも衣装もすこーし背伸び気味に「アンバランスのバランス」を狙った攻め方といえようか。ひたすら愛らしい天気組のパフォーマンスとは、ひと味違う先輩ぶりを4人がみせてくれた。すっかりお気に入り曲になったアンコール明け「ワクテカ Take a chance」では、バズビー・バークレー風の真俯瞰のダンス映像が生きる、縦横ななめのフォーメーション変化にわくわく。風と大地を感じるゆらめきの身体表現に、よりダイナミックな連動性を感じた。
  • 昨日、仕事で渋谷に立ち寄ったついでに、109の円筒ビルに掲げられた「ワクテカ」の巨大広告を見てきた。思いのほか、駅前の風景にうるわしく溶けこんでいた。ポスターの背景色のアオ色、「青」というよりちょっとくすんだ「蒼」が、暮れかけた渋谷の空の寂寥感に似合ってると思った。いや、もっと遠いあこがれを誘う寂寥感。ガス・ヴァン・サント監督、ミワ・ワコウシカ主演の秀作『永遠の僕たち』の空みたいな喚起力があった、と言っておこう。そういえば、今回の娘。コンはカラフルというより、青と赤がせめぎあうような大人っぽい照明の使い方が印象に残っている。ああ、またライブに行きたい。もう一度、またもう一度と今ツアーはクセになる。

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