身すぎ世すぎ。

映画、演劇、HELLOが3本柱の雑感×考察

新生『スケバン刑事』感想

  • スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』をひとあし早く観てきました。以下はその感想ですが、「ぜったい映画館に行く」とすでに決めていて、いまから楽しみにしている方は読まないほうがいいと思います。観に行くかどうするか迷っている方は、判断材料のひとつにでもしてもらえれば。ちょっとばかり突っこんで書きますが、物語の勘どころについてのネタバレはしません。
  • 新生『スケバン刑事』は8割方ハッタリでできている。この題材だもの、ハッタリも芸があればおおいに歓迎なのだが、芸のなさを補うため音響効果で耳をくらませ、VFXで目をくらませる。そういうワンパターンのハッタリなのがつらいところだ。
  • オープニングは期待をもたせた。麻宮サキのシルエットが007ばりにグラフィックにあしらわれ、背景が真っ赤に染まるタイトルバック。『0課の女・赤い手錠(わっぱ)』とか『女囚701号・さそり』とかいった往年の東映ハードボイルド・ヒロインものに連想がいく。異国で囚われた未成年女囚、松浦亜弥演じるサキもなにかに飢え、なにかに渇き、目を血走らせ、反抗的で手がつけられないハードボイルドなヒロインとしてまず現れた。いいぞいいぞ、と思った。でも、ほとんどそこがピークだった。
  • この映画は、斉藤由貴の母を救うべく退路を断たれて特命刑事を引き受けたサキが、犯罪の温床となっているとある荒れた学園に潜り込む、その潜入捜査のてんまつが物語の中心となっている。この学園内のシーンに及んで、映画はクチあんぐりのボロを出しはじめる。深作健太という監督は学園の日常を生徒たちの集合ショットとして描くアンサンブルの演出がまるでできない。
  • 父親の故・深作欣二は、晩年はいささか力を落としたものの、こういう集合ショットの演出が抜群だった。脇役から端役までみごとに集団を動かして、フレームを突き抜けてせっぱ詰まったチンピラたちの息づかいが聞こえてきそうだった。健太演出は基本的なリアリティのレベルでアウト。そういうレベルで、いじめだの、集団自殺だの、アングラ・サイトだの、現代的要素とやらを盛り込めばどうなるか? 空中分解は目に見えている。麻宮サキは大人にはわからない同じ「心の闇」をかかえたガキだからこそ、ここに潜り込んだはずなのに。描写力の基礎がないまま、監督になってしまったんだろうな。
  • とくに名を秘すが、大画面に耐えうるような表情すらできない演じ手がかなり重要な役という致命傷。映画は大画面にいかに在ることができるかという“存在”の強度が勝負だから、演技の上手さが邪魔になることなどザラにある。どうしようもなく下手な演じ手をいかに魅力的に使いこなすかが名監督の腕の見せどころでもある。健太監督はそういう演出上の工夫を一切せずに、芸なくOKを出しているみたい。まあアップフロント主導のキャスティングの問題も間違いなくあるのだが。
  • 石川梨華は健闘していた。撮入まもないとおぼしきシーンこそギクシャクしていたが、ちゃんと“悪女”秋山レイカとして大画面の空間を支配していた。アクション女優としてもいけるのではないか。ピンと足が跳ね上がって見栄えがいい。映画の悪女は、その蠱惑で男を破滅させるか、自分が妖しく破滅するか、ふたつにひとつだ。“終わり”はきちんと見届けてほしい。そこをきちんとできないのも演出のダメなところ。
  • 石川梨華には「お前の全存在がウゼエんだよ!」という例の台詞とは別方向の、思い切った台詞がひとつあった。
   レイカ「今夜は○○てくれないの? あんな獲物じゃダメ?」*1

役者づいたいまなら、ここはもう少しツヤっぽく演じられるのではないかなぁ。悪女役に肝がすわる以前に撮影したシーンだったのかもしれない。まあ、せっかくの台詞なんだから、どうせならもっといい監督に演出してほしかった。ないものねだりか。残念ながら、ここは幼く見えてしまった。松浦亜弥のサキは情にほだされちゃうところが玉にキズ。さまになってるんだからハードボイルドに徹すればいいのに。太股さらしたりエビ反ったり、頑張ってアクションしてたけどね。(引き画はスタントマンか)

  • 脚本は丸山昇一。『翔んだカップル』や『処刑遊戯』の優秀なベテラン脚本家だ。本作でも職人の仕事はこなしていると思う。ただ、3日間以内に母を救うという“タイム・リミッツ・レスキュー”の構えをもっていながら、幽閉された母のシーンを時を追って簡潔に描けていないのは脚本レベルの弱さだろう。これでは、助かるか助からないか、というサスペンスが生まれようがない。それとも斉藤由貴出演に関する現場の制約で切ってしまったのか? 謎だ。
  • それにしても、本当の意味でアクションを撮れる監督が日本にはいなくなってしまった、とつくづく思う。現場ではかなり苛酷な肉体酷使を役者に強いているはずだが、画面ではデジタル処理の映像効果にそれが負けてしまうのだ。“苛酷”といえば、父・深作欣二から息子へ、映画監督の才能ってヤツは受け継がれてくれないんだな、というもうひとつの苛酷さをも思わずにはいられない。いっそ香港アクションという才能の宝庫をたずね、たとえば『インファナル・アフェア』三部作のアンドリュー・ラウアラン・マック監督のどちらかとか、『ザ・ミッション/非情の掟』や『PTU』のジョニー・トー監督とか、『ワンナイト・イン・モンコック』のイー・トンシン監督とかにオファーできなかったか。香港映画の状況はいよいよ厳しそうだし、次はダメモトでどう? 受けてくれる可能性は充分にあるだろう。そうすれば、懸案らしい松浦亜弥の世界進出も夢じゃないかも。

_____

*1:後半部分は台詞の正確さを欠いているかもしれません。